2010/12/02

 「個人的な愛国心」(日垣隆/角川ONEテーマ21/角川書店)

 小林信彦が週刊文春に連載している「本音を申せば」。昨年、「気になる日本語」のサブタイトルで何度か書いている。「悩ましい」の誤用が発端だった。読者の反響も大きかったのだろう、「B型の品格」より掲載回数が多かった。2010年分が一冊にまとまったら、書名は「気になる日本語」になると思う。たぶん。
 それはともかく。この「気になる日本語」シリーズの中に、こういう日本語の誤用を指摘したりすると、必ず「言葉は変わるものだから」と言い出す識者がいる、というようなことが書かれていた。
 本書に出てくるのだ、この「言葉は変わるものだから」というフレーズが。日垣隆は、それが主義なのか、文中に今風言葉(表現)を挿入する傾向がある。わざと語尾に(笑)をつけたり。照れ隠しの一種と思っていたのだが、本書では悩ましいの誤用もしていたような。ちょっとがっかり。


2010/12/06

 「雑誌よ、甦れ!」(高橋文夫/晶文社)

 図書館の棚で手にとって、版元に驚いた。こんな本も作っているのかと。本の装丁も、内容もどこか晶文社らしくない。
 〈「情報津波」時代のジャーナリズム〉の副題がつくように、雑誌の休刊(廃刊)が続くこのインターネット時代に、雑誌はどうあるべきか、ジャーナリズムの進む道を問いかける。
 アナログ世代、活字世代、本も雑誌も紙が命、と考えている僕がいうのもおもかしいが、近い将来、それがどのくらいかはわからないが、一部の雑誌、書籍を除いて、電子書籍に移行するのだろう。電子書籍になっても、縦書きの文化が残るなら、受け入れてもいいかなと思っている。


2010/12/09

 「ドラマ解読 映画・テレビ・演劇批評」(井上理恵/社会評論社)

「フェミニズムなんて、くそくらえ!」
 読みながら何度も叫んでいた。
 著者についてはまったく知らず、書名に惹かれて手に取った。映画、TV、演劇について、どのように批評しているのか興味がわいたので。映画・TVと演劇をいっしょにしたところが自分のアンテナにひっかかったというわけ。
 しかし、しかし。「たそがれ清兵衛」の批評でこの人、本当に映画を観ているのだろうかと毒づきたくなった。
 映画「たそがれ清兵衛」の物語は以下のとおり。ストーリーがわからないと指摘できないので、長くなるが「夕景工房」のレビューから引用する(誤字脱字間違いは訂正)。

     ◇
 東北・庄内の海坂藩。御蔵役を任ずる下級武士が主人公。妻を亡くし、幼い娘二人と年老いた母親を養う清兵衛(真田広之)は定時が来ると内職と家事のため帰宅する。同僚の誘いも断り、必ず黄昏時に帰ってしまうことからいつしか〈たそがれ清兵衛〉とあだ名がついていた。  
 着物はボロばかり、風呂も何日も入らない有様で、同僚、上司から陰口をたたかれるが、仕事は実直そのもの、他人がどう思うと、自分の生活に不満はない。世話をしてくれる嫁がいれば改まるだろうと口うるさい叔父(丹波哲郎)からすすめられた再婚話もきっぱり断った。  
 ある日、江戸詰めの友人(吹越満)が帰ってきて妹・朋江(宮沢りえ)の消息を知った。清兵衛にとって幼なじみの朋江は一度嫁いだのだが、酒乱夫(大杉漣)の暴力に耐え切れず、離縁して実家に戻っていたのだ。  
 ある夜未練たらたらの夫が朋江をとりもどすべく追いかけてきた。もどるかもどらないか、夫は答えを求めて果し合いを申し出る。清兵衛が友人に代わって受けることになった。翌日真剣で向ってきた夫を清兵衛は木の切れ端を使って一撃で倒してしまった。清兵衛は剣の達人。噂はあっというまに藩に広まった。  
 朋江は清兵衛の家にちょくちょく訪ねては娘たちの遊び相手になっていた。友人は清兵衛に朋江との縁談を勧めた。実は妹が言うには清兵衛の嫁だったらなってもいいと。清兵衛は断る。身分が違いすぎる。今の稼ぎでは苦労するのはわかりきっていると。以来朋江は清兵衛の家を訪ねなくなった。  
 江戸で藩主が急逝した。後継者問題で二つの派閥が争っていたがどうやら決着がついたようだ。そんなある夜、清兵衛に藩命がくだった。反対派の一人・馬廻り役(田村泯)が切腹を不服として自宅に立てこもっている。こやつを討て。一度は辞退するが、侍にとって藩の命令は絶対だった。
 何より馬廻り役を討てばその功績で家禄があがる。  
 翌日、清兵衛は朋江を家に呼び、理由を話して身支度を手伝わせる。そして出かけに言うのだった。
「幼い頃からあなたを嫁にするのが夢だった。この戦いには必ず勝つ。勝って生きて帰ってくる。帰ってきたら私の嫁になってくれ」
     ◇

 映画の見せ場の一つである、この清兵衛の台詞について、著者は書くのだ。なぜそこで言う、どうしてもっと早く告白しないのか、と。
 あきれた。思わず欽ちゃんになってしまったよ。「どうしてそうなるの?」
 主人公の状況として、ここでしかこの台詞は言えないでしょうが。
 一つは、家禄が上がるということ。これはとても重要な要因だ。もう一つは必ず敵を倒して生きて帰ってくる心の糧にしたいということ。そんな清兵衛の気持ちがこちらにびんびんと伝わってくるわけだ。
 映画「たそがれ清兵衛」のストーリー紹介では、役名(俳優名)という書き方をした。ただ、場合によっては、役名をはぶいて俳優名だけで済ますということもありうる。「仁義なき戦い」で菅原文太が親分の金子信雄に怒り心頭だった、と書けば、それは主人公の広能昌三であり、山守組組長のことである。映画評の一つの技術だと思っている。

 ところが著者は、ある映画評論家が書いた「東京物語」評で、原節子が演じた登場人物のことを、そのまま原節子と書いてあることに反発するのだ。映画の人物と原節子を同一視していると。そんなバカな。ため息つきます。
 ほかにも向田邦子を男が喜ぶドラマを書くと書いている。著者は時代というものを理解しようとしていない。フェミニズム一辺倒で時代劇や戦前、戦後のドラマ、映画を批評しても意味がない。

 


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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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