その1から続く

 父親にチケットを渡すと娘はさっさと会場内に消えていった。友人のところへ行ったのだろう。一人になった父は受付でチケットをもぎってもらい中に入る。特典でオリジナル軍手をもらう。
 入場の条件で500円でドリンク券を購入。中に入る前に生ビールで喉を潤した。
 ライブが始まるというので、ドリンクコーナーに近いドア(ホール左サイドの後方)を開けると、観客が一杯で中に入れない。仕方なく前方のドアから中に入る。こちらも混雑しているが、ドア付近に少し余裕があったので、壁にもたれるような感じでステージを見る。

 観客の中にオレンジのつなぎ(作業服)を着ている人たちがいた。何組も見かけた。オレンジだけでなく紺色のつなぎグループも。あとでわかったのだが、このつなぎ、このバンドのユニフォーム(?)なのだった。ファンはそれを真似していたわけか。ああ、だからオリジナル軍手が特典なのか! 
 平成のダウンタウン・ブギウギ・バンド?

 メンバーがステージに登場。上手にヴォーカル&ギターの男性、下手はベースの女性。二人の後方には一段高いところにドラムスの男性。
 3人とも眼鏡をかけている。眼鏡というか、写真なので素顔をわからせないために施す目隠しのようなタイプ。色はシルバーだったような。この目隠しのため、3人の存在がとても無機質なものに思えてしまうから不思議なものだ。

 MC担当のヴォーカル&ギターの男性が何かにつけて叫ぶ。よく聞きとれない。「トォース」と言っているのか。観客も元気に応える。まるで「8時だよ 全員集合!」のオープニングで、いかりや長介が客席に挨拶するみたいなやりとり。

 演奏が始まった。観客ノリノリ。身体をはずませステージと一体化している。
 困った。何歌っているのかわからない。歌詞が聞きとれない。もともと楽曲はメロディやアレンジで入っていくから、とりあえず歌詞はどうでもいい。演奏そのものにまったくノレないのがつらい。ギターの音色にしびれる、とか、ベースに下半身が反応する、とか、あればそれはそれで楽しめるのに。ベースの女性のマスクに注目…したくたって目隠ししていたんじゃ意味がない。
 シラけた気分でステージを、観客を見ていた。

 娘は、このバンドのどこがいいのだろうか?
 ちなみに娘はスピッツのFCに入っている。椎名林檎のファンでもある。以前はポルノグラフティの大ファンだったのに、今は興味がないらしい。宇多田ひかるも好きらしい。そういったアーティストとPOLYSICSの接点は何だろう?
 娘もノリノリでこのライブを体感しているのか。どこにいるのかわからないので(わかりたいくもないので)目にすることができない。

 場違いなところに迷い込んでしまった感覚に陥りながら、ふと思った。
 この子たち(10代、20代)が、もし、何も知らずに、ショーケンのコンサートに迷い込んだらとしたら? ステージのパフォーマンス(ショーケンの歌声、バックの演奏等々)や観客の反応をどう見るのか、感じるのか。
 今の自分と同じなのかなあ。同じなんだろうなあ、たぶん。

 ライブの2/3はそこで観ていた。気持ち悪くなってきた。酸欠状態になったような気分。外に出た。
 しばらくロビーでうろちょろしたあと、逆サイドの後方ドアから中に入った。かなりスペースにゆとりがあってゆっくりとステージを眺められる。驚いたのは音がクリアになっていること、歌詞が聞きとれるのだ。場所の問題だったのか! 最初からここにすればよかった。
 そうなると、さっきまでの拒否感はどこえやら、演奏も歌も身を入れて聴けるから不思議なものだ。
 男性二人は目隠しをはずしていた。おお、素顔だ。親近感はそんなところにも由来するのかも。楽しみはいつ女性が目隠しをとるかになった。結局とらなかった。がっかり……。




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kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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