今から思うと「冷たい熱帯魚」の衝撃に通じるものがあったかもしれない。1977年のあの日。
 長谷川和彦監督の「青春の殺人者」だ。なんたって水谷豊と原田美枝子の共演である。隣町の足利で観た。ATG映画は太田にはやってこないのだ。

 「青春の殺人者」は長谷川和彦監督の劇場映画デビュー作。原作は中上健次の短編「蛇淫」で田村孟がシナリオ化した。千葉県市原市で起きた両親殺人事件が題材になっている。
 両親を殺す青年に水谷豊、その恋人が原田美枝子。音楽はゴダイゴが担当した。
 その年の映画賞では軒並み受賞したのでなかったか。
 当時愛読していた「キネマ旬報」ベストテン(1976年度)で第一位になったほか、主演男優賞、主演女優賞を受賞した。日本映画の新しい夜明けみたいな感じがして、わがことのように喜んだのを覚えている。いつも皮ジャンにサングラスのゴジ監督を真似て、黒の皮ジャンを着たふたりが特別決算号の表紙を飾ったことも。
 水谷豊は長谷川監督の第2作「太陽を盗んだ男」では、ジュリー演じる主人公に拳銃を奪われてしまう交番の警察官役で友情出演している。
 「太陽を盗んだ男」以降、長谷川監督が新作を撮れないなんて思ってもみなかった。「連合赤軍」だけはものにして欲しかったのだけれど……。

   ◇

 1977年 7月16日

 水谷豊と原田美枝子の主演だ。それだけでうれしくなっちまう。
 親を殺すってどういうことだろう。
 自分にはとてもできないことだと思う。
 確かに時には、いやらしく頭にくる存在になるが、やはり親は親だ。いなければさびしい。
 そんな親を2人とも殺す。いや父親を殺した時、もう母親が死んだも同然だ。
 市原悦子がすごかった。
 夫が息子に殺されたのを知っていう言葉
「何もよその他人さまに害を加えたわけじゃないんだ」
「お父さんが死んで、あげくにお前が死刑だなんて……」
 自分の母親ももしこういう事態になった時は同じような台詞を言うのだろうか。
 言うかもしれない。
 どこの母親も言うかもしれない。
 そんな気が、その時、した。
 そんな母の愛がしだいに狂ってくる。
「ねェ、やろうよ、あれやろうよ」
 興奮した。性的な興奮ではなく、何ていったらいいか、つまり動物的な、ものすごくイヤらしいものだ。
 彼(水谷豊)はこの時(母親を)殺そうと思ったにちがいない。
 母の死。その殺され方、死にかた。
 キョーレツだった。
 何も死を美化したりするつもりはない。
 だが、人間死ぬ時は、殺される時はああゆう風にみじめだろうと思ったりする。
 原田美枝子がかわいかった。
 水谷豊も水谷ブシの台詞まわしで健在。
 彼らの芝居をみていると、ああ自分も役者になりたい、あんな演技をしていみたいと思ってしまう。
 それほど新鮮なのだ。
 映画を観終わって、ガーンとはこなかった。
 しかし、映画館をでて、電車に乗って、(自転車で)雨の中を走っていると、しだいに感動が胸をおおってくる。

   ◇

 7月17日

 感動とは何だろう?
 いつ頃からこんな感動を受けるのか。
 大げさに書けば、胸が痛くなるのだ。
 例えば、原田美枝子が「順、あけてよ」というシーンを思い出すとする、その時どうも自分が変なんだ。不安定なんだ。甘いような感じになる。それとは反対に何だかさびしい気にもなる。
 こんな感動は昔からあった気がする。
 「わんわん忠臣蔵」を観た時も「わんぱく王子の大蛇退治」の時も。
「モスラ対ゴジラ」の時も、「ガメラ」の映画の時も。
 一番はっきりと憶えているのは「小さな恋のメロディ」。
 この時からかもしれない。
 この感動は「ロミオとジュリエット」「フレンズ」と続き、しばらくなかった。
 映画を観て、ラストで「よかったな」と思うのだが、映画館をでてしまうと忘れてしまうというのが多かった。
 しばらく忘れていた感動を再びよみがえらせたのは「大地の子守歌」だ。
 あの時もひどかった。ちょっと頭に浮かべると胸がキューンだ。
 そして「バースデー・カード」。これはTVドラマだが、TVでこんなにも感動するのはめずらしい。
 泣くっていうのではない。涙がとどめもなく流れるってわけじゃない。
 あの時、映画の帰りにかぜをひき、熱をだし、うんうんうなされながら「ミッシェル」といってはまくらにとびつき「ジュリエット」と心で叫んでは目をさました。
 その時みたいだ。今の僕は。

   ◇




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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