21世紀になっても冤罪はある。足利事件や郵便不正事件がいい例だ。
 郵便不正事件では厚生労働省の元局長が、大阪地検の策略で犯人に仕立て上げられそうになった。もし、データ改竄が発覚しなかったら、元局長がいくら「無実」を叫んでも有罪になっていたのだろうか。

 先週読了した「ゴールデンスランバー」はまさにその恐怖を描いた小説だった。
 容疑者に対して警察官が無闇に発砲できるわけがない、何かというとショットガンを撃つ刑事にまるでリアリティがない、だいたい本当の犯人(組織)が何の目的で主人公を首相暗殺の単独犯に仕立てるのか、事件の真相がまるで解明されないではないか……。
 いろいろ疑問点を指摘できる。
 映画を観たとき、感銘を受けたとはいえ、最初の二つの疑問が頭をよぎった。それからあの廃車はバッテリーを交換したぐらいでは動かないだろうとも。
 小説を読んでわかったのだが、舞台となる世界はある種のパラレルワールドなのだ。そうだとわかれば何かと許せてしまう。いや、エンタテインメントだからわざとそんな設定、展開にしたのかもしれない。「嘘でぇ!」の部分がないと怖すぎるもの。

 つまり、こういうことだ。
 日本で首相暗殺なんてありえないだろう。警察がここまで徹底して無実の男を犯罪者に仕立てるなんてこともないかもしれない。描かれていることはあくまでもフィクションだ。とはいえ、似たようなことは日々行われているのではないか。程度の差はあれ、僕らはこれまで何度も目撃している。まさに足利事件や郵便不正事件がそうだった。
 サリン事件を思い出してほしい。メディアの扇動的な報道姿勢もあって、僕たちはまったく罪のない人を極悪人だと信じたではないか。

 袴田事件については、昨年、「BOX袴田事件 命とは」(監督:高橋伴明)が公開されている。

     ◇

 ●袴田事件/無実の死刑囚を救え 2007/09/21

 19日(水)の後楽園ホールにおけるボクシング観戦についてもう一つ書いておきたいことがある。

 入場時、試合のプログラムといっしょにA4サイズのチラシを渡された。着席してから内容を確認すると、表面に大きく「袴田厳さんの再審開始を支援します」の文字があった。
 袴田事件って、すでに無罪が確定したのではなかったっけ?
 一瞬そう思ったが、免田事件と勘違いしていることにすぐに気がついた。チラシは袴田事件の再審開始の活動を行っている弁護士と支援者たちが、この日の観客に活動に対する協力をお願いする内容だった。

 高校時代、学校の図書館から「狭山事件」という本を借りて読んだ。未解決の殺人事件の謎に迫る、といったようなある種ミステリを読む感覚で手に取ったのだが、読了後やりきれない思いが胸にうずまいた。続けざまに2、3冊関連書物をあたった。
 警察のこんな横暴が許されていいのか! 無罪の人を死刑にしていいのか!
 と同時に、こうも思った。事件は被告の冤罪を晴らすことだけが注目されている。被害者が誰かに殺された事実はどうなるのか、家族の心中はいかなるものか。真犯人はどこかでのうのうと生きているわけだから。こうして狭山事件、狭山裁判からわざと距離をおき無関心を装った。
 後から知る免田事件、袴田事件についても同様だった。

 チラシには袴田事件の概要が掲載されていた。
 事件が起きたのは1966年(昭和41年)。静岡県清水市(当時)の味噌製造会社の専務宅が放火され焼跡から4人の他殺体が発見された。味噌工場の寮に住んでいた元ボクサーの袴田氏が逮捕された。部屋で見つかった微量の血痕のついたパジャマが証拠だという。執拗な取調べで一度は自白したものの、裁判になってから無実を主張。
 その後、工場の味噌タンクから殺人現場で犯人が着ていた血染めの衣類(5点)が発見される。その中の一つであるズボンはサイズが小さくて袴田氏が穿けないにもかかわらず、本人のものとされ(パジャマの存在はすでに無視されている)、死刑を求刑される。東京高裁への控訴、最高裁への上告、ともに棄却され、1980年に死刑が確定した。

 昭和41年といえば僕はピカピカの小学1年生、7歳だ。現在、47歳。ということは40年間袴田氏は塀の中にいることになる。明らかに殺人を犯した人間が死刑か懲役15年かを争っているわけではない。警察の意向で証拠を捏造され、実際は無実かもしれないと思ったにもかかわらず裁判官は有罪を下したのである。いったいこれはどういうことなのか!

 メインイベントの前に、弁護士と支援者たちがリングに上がり、この事実を訴えた。支援者の一人、ボクシング協会の輪島功一会長の、くだけた、本音そのものの挨拶が胸に響いた。袴田氏は人生の半分以上を獄中で送っている。
 チラシの裏には輪島会長のインタビューが転載されていた。最近は精神に異常がみられるという。それを理由に支援者はもちろん家族の面談も許されない。
 どうやら警察も検察も大臣も獄中死を期待しているらしいのだ。

 支援って何をすればいいのか。カンパだという。会場を後にするとき千円カンパした。


 【追記】

 光市母子殺人事件の被告弁護団、特にY弁護士は、この裁判には興味ないのだろうか?


 ●「相棒」最終回スペシャルと袴田事件 2008/03/29

 先週の「相棒」最終回2時間スペシャル「黙示録」は、袴田事件の再審要求の結果が25日に出ることを予測して制作されたのだろうか?
 
 ある死刑囚が獄中死した。その解剖に立ち会った杉下(水谷豊)と亀山(寺脇康文)は19年間刑が執行されなかったことに不審に思う。独自の捜査を始めると、死刑囚は無実だったかもしれないことが判明。と、同時に、病死をきっかけに、この事件の捜査を担当した刑事と裁判時の検事が殺されていたことも。
 連続殺人事件の犯人は誰か? 死刑囚の父親(林隆三)、再審請求を続ける弁護士(ベンガル&宮川一朗太)、当時の裁判官の一人(石橋凌)……。
 最後に意外な人物が真犯人であることをつきとめるわけだが、印象的だったのはラスト。ネタバレさせてしまうが、石橋凌が犯人の無実を知りながら、他の二人の裁判官に押し切られる形で判決文を書いたことがわかるのだ。

 死刑囚とされる人物が犯した25年前の事件も袴田事件を彷彿させる。
 ドラマでは、解雇されたことを恨んだ犯人(死刑囚)が上司宅に忍び込み妻を殺害、放火したことで娘も巻き込まれてしまったというもの。
 袴田事件の概要はこうだ。静岡の味噌製造会社の専務宅が放火され、焼跡から一家4人の死体が発見された。静岡県警が工場内の従業員寮を捜査すると、従業員の部屋から微量な血痕のついたパジャマが見つかり、この部屋に住む袴田氏が逮捕された。このときの取り調べが杜撰極まりない。
 にもかかわらず、死刑が確定し、以後袴田氏は40年間獄中の身である。
 最近になって、静岡地裁で死刑判決にかかわった元裁判官が「袴田氏は無実だと思った」が、他の裁判官(一人は裁判長)が有罪を主張し、結果、死刑判決となり、判決文は自分が書いた旨告白した。
 まさにドラマの中の石橋凌である。

 それにしても、今回の最高裁の再審請求の棄却は納得できない。
 特に、袴田氏が犯人であることを決定づけた物的証拠に対する見解が信じられなかった。
 ズボンが小さくて袴田氏がはくことができなかったことについて、最高裁は「縮んだにすぎない」としている。脱力とはこのことだ。
 
 「相棒」最終回は、袴田事件の再審請求へのエールではなかったか。そして、事件を担当した刑事や検事に対して「腹をくくれ」とメッセージを送っている。まさか、最高裁で棄却されるなんてこと考えていなかったのだろう。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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