「メロディ、ミシェル&ジュリエット 1977 春だったね」への道程2009-01-07 Wed 00:31 2005/05/09〜13 mixiから転載です。 ■これは映画になる! 高校に入学して、やることなすことうまくいかなくなった。その打開策に高校1年の夏休み、一人で特撮映画に挑戦し失敗したことはすでに述べた。音信不通になった彼女から「いい友だちでいましょう」との手紙をもらったのは二学期がはじまってすぐのこと。もう暗黒の高校生活だ。 「何かひとつに打ち込んでみなさい」 夏休みにもらった中学時代のS先生からの暑中見舞いに書いてあった。8ミリ映画の制作にとりあえずピリオドを打った私はさて何をしようかと悩み、結局休み前に辞めたラグビー部に再入部したのであった。別にラグビーが好きだったわけではない。もう意地である。 とにかくラグビー部の練習は苦しかった。何度となく辞めたくなった。が、一度誓ったことを撤回したくない。足の速さだけを武器に右のウィングとして2年からレギュラーになって毎日練習に明け暮れた。日曜日は対外試合。 相変わらず成績は向上せず、ふられた彼女への思いは断ち切れず、悶々とした日々が続いた。それでも練習や試合のあとの汗を流した後の充実感で何とかやっていた。 高校3年。ラグビー春の大会。県大会で優勝することが目標だった。決勝戦まで勝ち進んだ。当日は土砂降りの雨。野球と違って観客席に応援団はいない。応援団どころか観客なんて誰一人いない。当時、ラグビーの人気なんてそんなものだった。 絶対に勝てると思った試合は凡ミスが目立って、惜敗した。雨の中、ある者は泣き崩れた。ある者は放心状態のまま立ちつくした。僕はというと、そんな光景を目の当たりにして「これは映画になる」と心の中で叫んでいた。 ■天使がいっぱい 高校を舞台にラグビー部の面々が活躍する映画ができないか? 高校3年の春の大会決勝戦で渦巻いた考えがずっとあっていつかシナリオにまとめようと思っていた。 群馬の片田舎、太田市の男子高校。まるで女っ気がなく、東毛の名門校(進学校)として受験勉強でキュウキュウとなっている生徒と先生。そんな環境の中で型破りなコーチにしごかれるラグビー部員たち。ある者はイヤイヤながらある者は真剣にラグビーに励む姿を活写する物語。 古くは「青春とはなんだ」、新しいところで(といってももうふた昔か)「スクール・ウォーズ」というTV映画があったが、映画でラグビーが扱われたことはなかった(と思う)。 上映時間を2時間として1時間20分をラグビー部のレギュラー個々の生活スケッチ、10分が決勝戦までの経過、ラスト30分が本物の迫力ある試合描写。あくまでも普通の高校生が勉強に悩み、男子校ゆえの女の子とのつきあいに思いをはせ、という毎日を淡々と描きながら決勝戦にかける意気込みを絡ませ、クライマックスの試合で爆発させるのだ。 実際に原稿用紙に書き出したのは、社会人3年めの春。勤めていたCF製作会社を辞め、シナリオ執筆に賭けた。この会社を辞めるまでにはまた一騒動があったのだが(躁状態が激しくなり、郷里へ強制送還されたりした。一応円満退社だが、要はクビなんだろうな)、それはまた別の話。 いわゆる8mm映画のシナリオは何本も書いていたが本格的なものはじめて。200字詰め原稿用紙に文字を埋める作業が続いた。 働いていないのだから金はない。貯金をどんどん食いつぶしていく。普通なら不安でたまらないのに、躁だから何も怖くない。推敲に推敲を重ね、シナリオが完成した。 タイトルは「天使がいっぱい」。 ■なぜ「天使がいっぱい」なのか? ファーストシーンは芝生なんてどこにもない、普通のグラウンド。その向こうを東武の旧式電車が走っていく。 〈1977年 春〉の文字が浮かんで消え……ゴールポストが見えて、キックされたラグビーボールがその脇を通り越していく。 グラウンドの中央にボールをキックした男(キャプテン)と副キャプテンの姿。 「この位置からだとどうしてもゴールが決まらないんだよな」 「春の大会までに何とかすればいいよ、焦るな焦るな」 放課後。グラウンドに他のメンバーも集まってくる。 その様子を校舎の窓から覗いている6つの瞳。 「どうする?」 「オレ、今日は帰りたい気分」 「右に同じ」 ヨウヘイと上ちゃんとバイアン(本編の主人公トリオ)がそっと玄関から抜け出して、東門を通りすぎようとしたところへ、緑のボルボとすれ違う。緊張した面持ちになる3人。急ブレーキで停車するボルボ。中から30代半ばの男が降りてくる。ラグビー部監督の萩原だ。 「お前らどこへ行く?」 3人はシドロモドロになって、回れ右。部室に向かう。 こんな風にして映画は始まる。 ヨウヘイは大失恋の痛手から立ち直れないでいるところ、最近町に出来た古書店でかわいい女子高生に一目ぼれ。バイアンは中学時代の同級生へのアタックが功を奏し、回転寿司屋でデートの毎日。上ちゃんは勉強に精をだす。キャプテンの南と副キャプテンの諏訪は春の大会に向けて練習に余念がない。その他、女と見るやすぐに声をかけたがるナンパグループ、バイク命のワル軍団、特撮好きなマニアック組などさまざまな個性が集うラグビー部15人のレギュラーと後輩たちを何気ないエピソードを挿入しながらスケッチしていく。 クライマックス。土砂降りの雨の中、O高校は宿敵T高校に1トライ差で負けている状況。後半、ノーサイドまでもう時間がない。O高校がトライを決め、これでゴールを決まれば逆転できる。しかし、その位置は南が苦手としているコーナー。固唾をのんで南を見守る14人。南がキック! ボールは高く舞い上がり……そこでホワイトアウトして主題歌の吉田拓郎「春だったね」(ロックバージョン)が流れ、クレジットロール。 しかし、なぜ「天使がいっぱい」なのだろう? ■星屑のグズ なぜラグビーの青春映画のタイトルが「天使がいっぱい」なのか? 「十五少年闘球記」なんて仮題をつけて書き出したものの、どうにもしっくりこない。学園モノ、ラグビーのイメージから一番遠いタイトルはないものだろうかと考えていたところ、以前まだ会社勤めをしていた時に、先輩と話したことを思い出した。 大林宣彦監督の尾道三部作の最終作「さびしんぼう」。劇場で見逃した私は、ビデオを借りた。レンタルビデオなるものが出来た頃のことだ。確かレンタル料が二泊三日で1300円だったと思う。大感激した。 しばらくして名画座の並木座で上映されることを知った。会社から歩いていける距離ということもあって、夕方仕事を終えて足を運んだ。スクリーンで観ると味わいも格別で、大泣き状態。 そのままアパートに帰る気になれず、会社に電話した。まだ仕事中の先輩がいた。 呼び出して「さびしんぼう」を肴に飲んだ。話がはずんで、今自分が考えている映画の話題になった。その一つががCF製作会社の制作(プロダクションマネジャー)のオチこぼれがキャバクラ嬢に恋をする物語。 当時は広告、CMが大ブームの頃だ。プロダクションマネージャーなんて掃いて捨てるほどいる、だから星屑、その中で愚鈍な男が主人公だからタイトルは「星屑のグズ」なんて一人悦に入っていた。 で、もうひとつ企画がありましてね、ってんで口にしたのが、高校3年時から考えているラグビーもの。おおまかなストーリーを説明し、テーマや撮影、演出にあたっての狙いを饒舌に語った。 思えばその1年前、同棲生活が2週間で破局し、傷心がなかなか癒えないところにもってきて、仕事の悩みも渦巻いていた。念願の映像の制作会社にやっと就職できたものの、本当に自分はこの業界でやっていけるのか、初対面の人に萎縮してしまう私は現場で緊張して自分らしさが発揮できない。ミスばかりしてすっかり自信を失っていた。 給料も安く、それが結局将来への不安となって、彼女が逃げていってしまったわけだから、悩みは幾重もの螺旋を描いていたのである。円形脱毛症になって、その治療にもてこずった。 そんな不安、悩みから脱出して、さあこれから! という時だった。 ■その後の天使がいっぱい 先輩との話。何かのはずみで私が「人間って悪い奴なんていないんですよねぇ」と言うと彼はうなづいた。「ある意味天使みたいだ」 なぜ天使という言葉がでてきたのか、今となってはわからない。わりと自然に口にしていた。 ラグビー部の連中を天使に見立てた。15人の天使か。天使がいっぱい。まるで映画の内容にそぐわない。それが気に入ったのだった。 昔「北京の秋」という海外の小説があった。読んだわけではない。早川書房のある本を買ったら、広告のページに何冊かの本が紹介されていてそのうちの1冊だった。コピーに作者が〈北京〉にも〈秋〉にも関係ないから、あえて「北京の秋」というタイトルにした、とあってその発想が愉快だった。それに近いタイトルのつけ方だ。 シナリオを書き上げ、まず角川春樹事務所に電話した。角川で映画化してほしいという願いがあった。 普通の私だったら、ぜったいそんな真似はできない。一時のひどい状態ではなかったものの、まだ躁であることにかわりなかった。怖いものなしなのだ。直接本人と話して、シナリオを読んでもらい、「これは面白い!」なんて感激してくれて、なんてストーリーを勝ってに思い描いていた。事務の女性がでて、「『野生時代』で募集してますから、そちらに応募してください」 けんもほろろの対応。そこを何とか! と押し切らないところが私のつつましいところ。違う。勇気がないんだ、やっぱり。 あっさり方向転換して、ディレクターズカンパニーのシナリオ募集に応募した。長谷川和彦監督を指名して「連合赤軍の映画を撮る前に、ラグビーの群像劇なんていかがですか?」という手紙を添えた。 しばらくして〈落選〉を告げるハガキが届いた。 「がんばっていきまっしょい」という映画をビデオで鑑賞した時、自分がやりたかったのはのはまさしくこういう世界だったんだ、と思った。女子高生を男子高生に、ボートをラグビーにすれば…… 自分の考えが間違っていないことに少しばかり自信をつけたものだ。 映画への夢をあきらめてからも、70年代の男子校を舞台にしたラグビー部の物語は何とかものにしたいという気持ちがある。2年前に小説にしようと思い立った。 タイトルはすぐに決まった。 「メロディ、ミシェル&ジュリエット 1977 春だったね」 |
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