承前

 *ネタばれしています

 ある年代(40代以上とか)にとって「砂の器」といったら、こんなストーリー(キーワード)をイメージしているのではないか。箇条書きにして並べてみる。

 ・蒲田操車場で起きた身元不明の殺人事件を追う刑事二人
 ・謎の言葉〈カメダ〉
 ・出雲地方のズーズー弁
 ・紙吹雪の女
 ・犯人は新進気鋭の音楽家
 ・音楽家は過去に戸籍詐称して別人になりすましている
 ・音楽家は幼いころ父親と放浪の旅へ(お遍路)
 ・父親はハンセン(氏)病を患っていた

 そして、これは個人的な勝手な推測なのだが、イメージのほとんどが映画からきているのではないか。
 映画を観てから原作を読むと驚かれると思う。ずいぶんと印象が違うと。つまり「砂の器」は、小説のストーリーより映画のそれが人口に膾炙している気がするのだ。
 「砂の器」の原作と映画の検証は拙著「小説と映画のあいだに」(発行:studio zero/蒼天社 発売:文藝書房)で取り上げている。原作との違いをこう書いた。

     ▽
 脚本の橋本忍と山田洋次は、原作のプロットとトリックを生かしながら登場人物を大幅に整理してストーリーの簡略化をはかった。
 殺人事件は最初の三木殺しだけ。あくまでも和賀の単独犯とした。前衛音楽(ミュージック・コンクレート)の旗手という設定もオーソドックスな音楽家に変更された。
 原作の骨格をなす〈犯人は誰か〉という謎解きをやめ、なぜ新進音楽家が善良な罪のない三木を殺すに至ったのか、その解明がクライマックスに用意される。
     △

 そのクライマックスが斬新だった。
 和賀が作曲した交響曲「宿命」が発表されるコンサート。その演奏(音楽)に乗せて、捜査会議と和賀の子ども時代の回想シーン(本浦父子の放浪の旅)がシンクロする。
 この回想シーンが観客の涙を誘った。ハンセン(氏)病患者に対する世の中の差別と偏見、そんな中での父子の情愛が浮き彫りにされたのだから、涙なくしては観られないショットが次々にでてくる。感動作といわれる所以だ。
 以後、「砂の器」といえば、この映画のクライマックスが応用されることになる。
 犯人が音楽家で交響楽を作曲してその発表会に逮捕されるというパターン、といえばいいか。

 しかし、原作は違う。全体を貫いているのは謎解きなのだ。蒲田操車場の殺人事件を端に発する連続殺人の犯人は誰か。その犯人を追って今西と吉村の二人の刑事が活躍するミステリ。
 ハンセン(氏)病、本浦父子の放浪は、小説では最後の方にほんのわずか書かれているに過ぎない。
 

 この項続く




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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