2012/01/04

 「渋滞」「八つ墓村」(銀座シネパトス)

 承前

 「八つ墓村」はリアルタイムで観ていない。
 市川崑監督、石坂浩二主演の「犬神家の一族」のあとでは、渥美清が金田一耕助に扮する、それも現代を舞台にした映画なんて興味がわかなかった。ショーケンが主演なのに。
 映画は大ヒットした。「たたりじゃー」のスポットCMは話題を呼び、その年の流行語になったのだ。
 
 観たのはずいぶん経ってからのTV放映で。
 そのときの感想を「君よ『犬神家の一族』のリメイクをどう思う?」(拙著「夕景工房 小説と映画のあいだに」所収)にこう書いた。
 市川崑監督の「犬神家の一族」が登場するまで、金田一シリーズの映画化作品はみな現代(製作当時の)を舞台にしていることをとりあげて続けた。

     ▽
 野村芳太郎監督の「八つ墓村」も舞台は現代だった。金田一にはあっと驚く渥美清が扮していて、秘境探検隊(?)みたいな衣装はそれなりにはまっていたとは思う。
 32人殺しの殺人鬼に扮した山崎努の異様なコスチュームと鬼気迫る演技、TVスポットで使用された「たたりじゃー」のフレーズは大ブームを巻き起こした。

 実はこの映画、事件の重要な鍵を握る青年に扮したショーケンが真の主役だというのに公開時に見逃した。後年、TVで観たのだが、私にとっては「?」がいくつも並んでしまうシロモノだった。
 陰惨で凄惨なおどろおどろしい物語を、そっくりそのまま映像に移し変えたオカルト風ドラマ。ズームイン、スームアウトを多用して落ち着きのないカメラワーク。一応ミステリという体裁をとっているけれど、根本的な要因は本当に祟りだったとする結末。そんな物語を感動作にしようとする全体の作り。どれもこれも違和感ばかりを覚える映画だったのだ。
 会社としては「砂の器」的な作品を期待していたのだろうか。
     △

 今回、初めてスクリーンで対面して、基本的にこのときの気持ちとかわらないものの、考え直すこともあった。
 ところで、〈秘境探検隊(?)みたいな衣装〉は完全なる勘違い。麻のシャツ、ズボン、麦わら帽子というファッションだった。
 
 冒頭のスタッフクレジットに改めて驚いた。
 監督・野村芳太郎、脚本・橋本忍、撮影・川又昂、音楽・芥川也寸志。
 主要スタッフがまんま「砂の器」ではないか。
 まあ、野村監督の場合、松本清張原作のミステリではどの作品も橋本忍が脚本を書いている。「張り込み」「ゼロの焦点」「影の車」。もしやと思って調べてみたら、「影の車」は「砂の器」スタッフだった。
 長編「砂の器」がそうだったように、「八つ墓村」でも橋本忍は原作へのアプローチを変えたのだろう。
 ミステリというよりは、原作のオカルト風味、怪奇色を前面に押し出した。ある意味金田一探偵が登場しなくても成り立つストーリーなのだ。
 ゆえに謎解きの面白さより、現代における地方の因習、呪われた伝説をセンセーショナルに描くことを主目的にし、因習、伝説に翻弄される人たちの悲しみを謳いあげた。

 考えてみれば、金田一探偵が登場しない、金田一ものを原作としたTVドラマ(TV映画)を僕は小学生時代に観ているのだ。
 日本テレビ系で「火曜日の女」という、5、6回でドラマが完結するシリーズがあった。その一つ「いとこ同志」の原作は「三つ首塔」である。悠木千帆を名乗っていた樹木希林がレギュラーの一人で、怪しいキャラクターだったのを覚えている。真犯人は誰か、それが気になって毎週夢中になって観ていた。調べてみると、島田陽子がヒロインだった。というと、「光る海」の前か。
 ほかにも「犬神家の一族」を原作にした「蒼いけものたち」、「悪魔の手毬唄」が原作の「おんな友だち」がある。この2作も観ているはずなのだが記憶にない。

 同時期だろうか、少年マガジンに連載されているマンガとして「八つ墓村」がインプットされた。漫画家は影丸譲也。

 1970年代はじめ、たぶんこの手のTV映画やマンガも手伝って、横溝正史のミステリが再評価されてきた。角川書店が文庫で復刊すると売れ行きもいい。
 当時の社長、角川春樹は松竹で進められている「八つ墓村」の封切に合わせて、横溝正史フェアの開催を企画した。ところが映画が完成しない。業を煮やした角川春樹は、自身で映画製作会社の角川春樹事務所を設立、市川崑監督による「犬神家の一族」に着手する。封切られるや、大ブームを呼んだわけだ。

 もし、当初の予定どおりに「八つ墓村」が公開されていたら、現代を舞台にした作劇も、渥美清の金田一も受け入れていたのかもしれない。原作を読んだことがなかったのだから。
 それにしても残虐描写は生半可なものではない。落武者が村人に惨殺されるシーン、要蔵(山崎努!)の32人殺しシーン。今見ると失笑してしまうショットもあるが、よくぞR指定を受けなかったものだ。
 個人的には葬式のシーンに山陰地方の様式を知る思いがした。何より鍾乳洞の撮影が見ごたえあった。
 山の上から、八つ墓村を見下ろすシーンで、小川真由美のスカートが風でゆらめくカットがある。スリットの入ったロングタイプなのだが、ゆれて太ももが何度か見える。実になんとも色っぽかった。

 肝心のショーケン。なぜこの映画に出演したのかとずっと思っていた。本によれば渥美清と共演したかったとその理由を語っていたような。とはいえ、ショーケンが主人公の辰弥を演じる必要性があまり感じられない。が、後半、黒いシャツと茶のコーデュロイパンツになってから、ドラマに溶け込んだような気がする。

 最後まで違和感あったのはカメラワークだった。ロケーションにおけるズームアップ、ズームバックが安っぽかった。特にラスト、炎上する多治見家を見下ろすところで、まず、現代の人たち、続いて落武者たちになるつなぎにがっかりするのだ。TV放映時もそうだったが、今回も同じ。
 室内は重厚な撮影のに。前述のように鍾乳洞も。

 出演者をみていると、どうしても「男はつらいよ」を思い浮かべてしまう。3代目おいちゃん、下条正巳が下條アトムと親子共演しているし、落武者の一人は佐藤蛾次郎だ。岡本茉莉も村人の一人で顔を見せる。エンディングのタイトルロールで吉岡秀隆の名前があった。いったいどこに出ていたのか。ああ、少年時代のショーケン役か。
 落武者といえば、大将が夏八木勲のほか、田中邦衛、稲葉義男が顔をそろえる。山の上に並ぶ八人の姿は、まるでネガティブな「七人の侍」……。
 最初の犠牲者は加藤嘉。まんま「砂の器」で笑いそうになってしまった。村人の一人、加藤健一は、「砂の器」では、亀高で駐在所の警官だった。丹波哲郎に「君は訛ってないね」といわれていたっけ。

 エンディングロールにおける〈監督 野村芳太郎〉の扱いが、まるでその他の技師(撮影、照明、録音等々)と同じなのでまたまた驚く。開巻のクレジットできちんと紹介されているからか。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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