2012/01/06

 「誘拐報道」(銀座シネパトス)

 最初、シネパトス「1」で始まった「萩原健一映画祭」は、すぐにシネパトス「3」に移動になった。「約束」&「涙のあとに微笑みを」はガラガラでしたからね。まあ、僕が行った日の最終回だけで判断するのも無謀だけれど。
 それで、小さい小屋の「3」になったのかも。キャパ的にはちょうどいいのだろうと、このまま最後までいくのかと思っていたら、「渋滞」&「八つ墓村」では「2」に変わっていた。
 僕の中では「2」がシネパトスのメインホールだ。やはり大ヒットしたメジャー映画の扱いは違うと感心したのだが、「誘拐報道」初日に行くと、また「1」に戻っている。30年ぶりの上映ということで一番大きい小屋(たぶん)を用意したわけか。常時上映のプログラムは「青春の蹉跌」&「アフリカの光」だし。
 
 この日は、地元シネコンで「ワイルド7」を観ようとしていた。「M:I GP」はまだ当分上映しているだろうとの判断。しばらくして「誘拐報道」の初日であることに気がついた。どれにしようか迷っていると、シネリーブル池袋の「宇宙人ポール」の夜の上映が最後だとわかる。
 いったいどうしたらいいんだ! 
 悩んだ末、サプライズを期待して「誘拐報道」にした。

 油断していた。いくら30年ぶりの上映とはいえ(封切後、名画座で上映されているとは思うが)、これまで同様、ある程度のお客さんしか集まらないだろうと踏んでいた。だから、有楽町駅に着いてから、20時にはまだ時間があるということで、教文館等の書店で時間をつぶして「ちょっと早いかなぁ」と思いながらも30分前に伺ったわけだ。チケットを購入すると整理券(NO.79)を渡された。そこで気がついた。「2」から「3」につながる通路に長い列ができていることを。
 開場になると、ロビーに人があふれた。席もほとんどが埋まった。そうなると不思議なもので、「涙のあとに微笑みを」のときには場末の映画館に思えた場所が、ちょっと設備のいい名画座に見えてきた。調子がいいなぁと自分でも思う。

 上映前に伊藤俊也監督の挨拶があった。やはりサプライズはあったのだ! 自分の勘は衰えてはいない、なんてね。
 実は伊藤監督、プロデューサーのお二人と1,500円払って列に並んでいたという。そのあと支配人に紹介されて、急遽上映前の挨拶が決まったとか。でも、なぜ最初からトークショーが企画されなかったのか。いつもなら樋口尚文とのトークショーがセッティングされるのに。
 まあ、いいや。

 僕自身、30年ぶりの「誘拐報道」だ。いや、TVで観ているか? とにかく劇場では封切時以来のことである。
 1982年、ちょうど会社訪問のころ(当時は10月1日が会社訪問の解禁日)に観ている。確か、某CM制作会社を訪問して、帰り際に渡された交通費をそのまま入場料にあてたのではなかったか。
 当時の日記をあたってみた。

     ▽
 「誘拐報道」を渋谷パンテオンで観る。
 ショーケンが久々に熱演しているときいて期待していたのだが、小柳ルミ子の方が良かった。しかし、少しばかりあの頃のショーケンにもどりつつあるようだ。
     △

 そっけない感想だ。
 思い出した。「誘拐報道」の前に「魔性の夏 ~四谷怪談より」があって、その前が「影武者」。「影武者」ではショーケンの演技が酷評され(曰く何を言っているのかわからない!)、「魔性の夏 ~四谷怪談より」は映画自体の評判が悪かった。2作とも劇場に足を運ばなかった。そんな作品のあとだったので、久しぶりにショーケンが褒められていると期待してみたら、ショーケン以上に小柳ルミ子が良かった。それでムクれているのか。僕自身、電話のシーンの演技はちょっとやりすぎじゃないかと思ったことを覚えている。
 そういう意味では、年月が経ってからもう一度観ることができてとても良かったと思う。まっさらな気持ちで鑑賞して、ショーケンの役者としての力量を思い知らされたからだ。

 80年に起きた「宝塚市学童誘拐事件」を題材にした映画である。
 読売新聞大阪本社社会部に黒田清という辣腕記者がいて、この方をリーダーとする取材班による誘拐事件の顛末が新聞に連載された。連載を一冊にまとめたのが「誘拐報道」(新潮社)だ。
 映画は、このルポルタージュを原作とするが、伊藤監督は映画化にあたって、誘拐犯とその家族、及び息子を誘拐されて打ちひしがれる被害者の様子を詳細に描いた(脚本・松田寛夫)。
 ショーケン演じる誘拐犯の鬼気迫る演技、ちょっとくたびれた妻役の小柳ルミ子の演技が賞賛され、映画は数々の賞を受賞した。映画オリジナルの部分が評価され、逆に新聞記者たちのエピソードがステレオタイプだと批判された。誘拐犯と被害者(と警察)だけで成り立つ映画ともいえるのだが、原作が「誘拐報道」だからいたしかたない。
 ちなみに、黒田清はフリーになってからTVのワイドショー等のコメンテーターとしてよく見るようなった。ますます活躍するのだろうと思っていたら癌で急死。訃報はショックだった。

 前半はまさに「ゴジラ(第一作)」あるいは「ジョーズ」のようだ。なかなかショーケンが登場しない。誘拐犯の手や足、身体の一部を映すのみ。ここらへんはまだ三波伸介をリーダーとする記者グループを通した事件のプロローグというわけだ。丹波哲郎がカラオケで歌う「ダンシング・オールナイト」が笑える。ダンシング・オールナイトのグをちゃんと発音して歌うのが「グ~!」だ。
 キャメラの焦点が犯人にあってからはショーケンが主役になる。誘拐した子どもを処分しようと郷里の町(丹後)を彷徨うシーンは、凍てついた冬の風景が印象的。雪の降り方とか海面の波のうねりとか、誘拐犯の心象風景になっている。
 防寒コート(ウィンドブレーカー?)に身を包みフードを被って長靴をはいたショーケンが絵になる。別にファッショナブルな恰好ではないのだけれど。
 普段着姿の小柳ルミ子、ジーパン姿に色気を感じる。久しぶりに亭主のショーケンが帰ってきたあとの、キッチンでの夫婦喧嘩はワンカット撮影だったのか。ひとり、鏡を見ながら胸に手をやりタメ息をつくシーン。ゾクゾクきた。

 誘拐犯の家族を描きながら、切羽詰まった経済事情を観客に想像させる方法が巧い。
 建売(だと思う)の小さな一戸建てと私立の学校は不似合だ。郷里の友人(湯原昌幸!)が言う言葉「(ショーケンが運転する乗用車に対して)おお、××(車種)のバンは珍しい」高級車なのか。
 200万円の手形を持って現れる借金取り。小柳ルミ子が(亭主が)手形を渡した相手、喫茶店オーナーの中尾彬を訪ねる。いかにも好色そうな悪人顔だ。交わす会話で喫茶店がもともとショーケンのものだとわかる。
 小柳ルミ子が中尾彬に言い寄られるシーンの直後、ショーケンが郷里の海岸で同級生のさせ子と出会い、カーセックスに興じるはめになるシーンが続く。させ子役は池波志乃。中尾彬にしろ、池波志乃にしろ、どんぴしゃりのキャスティングで「まったく夫婦して」と笑ってしまった。
 記者役の三波伸介はしっかり記憶していたが、刑事役で伊東四朗が出演していたことはすっかり忘れていた。記者たちが取材の根城にするのが、宝塚の読売新聞販売所。ここの店主がなべおさみ。東京喜劇人に関西弁をしゃべらせるのは狙いなのだろうか。
 三波伸介はこの映画公開のあと、12月に急逝してしまう。あまりの突然のことですごくショックだった。52歳。今の僕と同い歳だったのか。

 息子を誘拐される親(岡本冨士太&秋吉久美子)の演技にも注目させられる。憔悴しきった父親と、憔悴しきって神経がちょっとおかしくなっている母親。一人娘を持つ親としてたまらないものがある。封切時は学生だったので、自分に照らし合わせてなんか観ていなかった。
 「うち、お父ちゃん好きや!」の高橋かおりは、この映画で知って以来、女優としての成長を見守っていたところがある。06年の公演「あ・うん」で、脚本・演出の立川志らく扮する門倉の奥さん役で登場したとき、あの子役が人妻役かと感慨深かった。
 誘拐される少年は和田求由。下の名前をなんて読むのかわからないが、見覚えがある、と思って調べたら、「恋文」「離婚しない女」に登場する子役だった。

 ショーケンの映画で、なぜか自分の中ではあまり重きを置いていなかったところのある「誘拐報道」。再見、それもスクリーンで観ることができたことに感謝する。エンディングロールでは充実感に浸っていた。やっぱ、すげぇや、ショーケン!
 上映が終わって、場内が拍手に包まれたことを付け加えておく。

 終了後、冒頭の挨拶で伊藤監督がおっしゃっていたように、ロビーでちょっとした質疑応答があった。
 その件については次項で。


 
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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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