「誘拐報道」の上映が終了。ロビーに出ると、伊藤俊也監督とプロデューサー(天野氏、瀬戸氏)が立話していた。トイレに寄ってから外に出ると、すでに有志の人たちに囲まれた監督(&プロデューサー)が話していた。

 話題は映画の中でも重要な意味をもつキッチンでショーケンと小柳ルミ子の言い争うシーンについて。ショーケン台詞が入らなくて最初はふたりの息が合わなかったらしい。
 何度かリハーサルを繰り返しているうちに、ショーケンにエンジンがかかった。最終リハーサルなのだが、監督が「本番リハ」(だったか?)と掛け声かけてキャメラ廻してのりハーサル。これがすごく良い出来。監督は「OK!」と叫んだのだが、記録(女性)が不安そうに尋ねてきた。
「あの~、ショーケンの大阪弁ひどいんですけど」
 そんなことはどうでもいい、とこのテイクを使ったそうな。

 もうひとつ、誘拐した少年におしっこさせるシーンについて。
 伊藤監督はこのシーンを撮影するにあたって、少年のおしっこで雪が黄色くなるところを押さえようとコンテを考えていた。実際に本番になると、ショーケンが少年におしっこをさせているあいだ、しきりに少年の身体をさわりはじめた。あれはショーケンのアドリブで、監督はそのアドリブに圧倒されてしまった。で、黄色くなるアップは必要ないと判断したそうな。
 伊藤監督がショーケンを褒め称える。
「あの役はショーケンのために考えたものですから」
「ショーケン以外、演じられないでしょう」

 えっ! そうなの?
 そこで初めて質問した。
「もともとあの役は松田優作にオファーされたのに、同じ年頃の娘を持つ親として誘拐犯は演じられないと断られて、ショーケンに話がまわってきたのではないですか?」
 伊藤監督は即座に否定した。「そんなことはありませよ、最初からショーケンを考えていましたから」
「ショーケンさんが上梓した本で語っていますが」
 監督は笑って「それはショーケンの……」 
「××ですか」 

「(三波伸介、伊東四朗、なべおさみ等の)東京喜劇人を起用したのには何か狙いがあるのでしょうか?」
 方言のうち、こと関西弁になると世間のチェックがきびしくなる、ような気がする。日本全国方言はかぎりなくあって、代表的な東北弁や九州弁(たとえば熊本弁)は、わりとおおらかな気持ちで聞いているのに。特にネイティブがうるさい。そんな関西弁を、ちゃきちゃきの江戸っ子の三波伸介や伊東四朗にしゃべらせるのだから。
「キャラクターを重視した結果です。彼らに演じてもらいたかった」

 キッチンで言い争いをする前の風呂のシーン。久しぶりにショーケンが帰宅して娘(高橋かおり)と風呂に入る。浴槽につかる際、腰まわりに黄色いタオルをまいたまま湯船につかる。これにはがっかりした。自宅の風呂では絶対にありえないからだ。
 本来ならタオルは写ってはいけなかった。しかし、何かのミスで写りこんでしまった。とはいえ、雰囲気がとてもよかったので、ありえないのは承知の上でOKカットにしてしまったのではないか。
 その件も訊いてみた。
 伊藤監督、笑っていました。

 誘拐犯逮捕のシーンについて。
 「誘拐報道」には牛乳瓶の蓋が重要な小道具として登場する。厚紙でできたあの円形のやつだ。映画の冒頭で、その蓋飛ばしゲーム(?)を通じて、誘拐される少年と誘拐犯の娘が親しくなっていく様子が描かれる。人差し指と親指を使って蓋を挟み、押し出すことで飛ばす遊び。誘拐された少年のポケットから牛乳瓶の蓋がいくつも出てくるショットもある。
 ショーケンが早朝自家用車を止めて、運転席で牛乳を飲んでいる(アンパンも食べていたか)と、後方からパトカーがやってきて「もはやこれまで」と観念する瞬間、右手で持っていた牛乳瓶の蓋を同じやり方で車外に投げ捨てる。あれは、もともとシナリオに書かれていたのか、それともその場の思いつきなのか。
「シナリオにあったかどうかは忘れたけれど、演出プランとして考えていました」
 ショーケンのアドリブじゃなかった。

 中尾彬、池波志乃の起用には意図があったのか否か、場面が続いているというところがどうにも気になるのだが、これは質問できなかった。

 宅麻伸が「誘拐報道」が映画デビューだったと、伊藤監督の話で知った。ほとんど演技ができず、だから、コンタクトレンズを落としたり、メガネをかけるとスーパーマンに変身したりの演出をつけたんだって。長年のコンタクトレンズ愛用者からすると、両目のコンタクトレンズが同時にはずれて落ちるなんてことは信じられないんですけど。まあいいや。
 宅麻伸がスーパーマンに変身したつもりでハミングしながら駆け出すシーン、実は本当にスーパーマンのテーマを口ずさむはずだったが、版権の関係でそれっぽいものにしたんだとか。

 「誘拐報道」が長年上映されない、ソフト化もされないのは、版権問題が絡んでいる。僕は喫茶店のシーンで流れる洋楽が関係していると予想したのだが、伊藤監督は言明をさけていた。

 最後に流れる主題歌をボーイソプラノにすることは最初から考えていたとのこと。で、詩人の谷川俊太郎に作詞を依頼した。そのときイメージとして見せたのが、トランクを開けると少年が押し込めらているラッシュ(だったか?)。
「出来上がってきた詞をリテイクさせたんだよね。あの谷川さんにそんなことさせたのは伊藤監督だけじゃない?」
 とは瀬戸氏の弁。

 ラスト、ヘリコプター操縦士でカメオ出演する菅原文太は、会社からの要請だったという。僕自身、一度映画を観ているのに菅原文太が出演していることをすっかり忘れていて、最初声が聞こえてきたときは、「もしかして?」とびっくり。そのあと顔出しして二度びっくり。声だけの出演の方が面白かった気がする。


 

関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「八つ墓村」 二つの映画と小説のあいだに
NEW Topics
告知ページ
 「グリーンマイル」 ~映画を観て原作をあたる
 「雨あがる」「ボイスレター」 「スペーストラベラーズ」「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」 「DEAD OR ALIVE 犯罪者」 ~ある日の夕景工房から
「シュリ」「海の上のピアニスト」「新選組」「ストーリー・オブ・ラブ」 ~ある日の夕景工房から
「天国と地獄」「どん底」 ~ある日の夕景工房から
「赤ひげ」「御法度」 ~ある日の夕景工房から
「ワイルド・ワイルド・ウエスト」「リトル・ヴォイス」「黒い家」 ~ある日の夕景工房から
1分間スピーチ #19 マスコミの悪意について
「双生児 ~GEMINI~」「秘密」「皆月」 ~ある日の夕景工房から
NHK「ファミリーヒストリー」は8月18日(金)に放送されます!
Comment
No title
感動しました〜〜行きたかったな初日。

前々からあたしが予想してた話なんですけど・・・。

ショーケンは、あゆみさんのお母さんに犯人役を反対されて、一旦は断ったって言ってるんですよね。それは「ショーケン」にも書いてますけど、上映当時も語っています。
で、断ったその時に優作さんに話が行ったのかなあ?と。
でも優作さんも断って、やっぱりショーケンに・・・
ショーケンも思い直したってことかな?って。

だって、あたしの当時の感覚でも、あの役、優作さんじゃないですもん。

伊藤監督自身のなかにはショーケンしかなかった、っていうのは、上映当時から一貫して語ってらっしゃることですので、信じていました!
でも、実際にお話してくださって本当に嬉しいです。
keiさんに大、大、大、大感謝!!

・・・ね、「約束」代役説も、あたしは全然信じてないんです(笑)。
でも、「誘拐報道断った」って語ってるのは、ショーケンじゃなくて優作さん自身じゃなかったでしたっけ?

showken-fun さん
>「約束」代役説も、あたしは全然信じてないんです

私も眉唾ものと思っています。
謹慎中、養育費稼ぎに、着ぐるみのアルバイトしていたということも。

>「誘拐報道断った」って語ってるのは、ショーケンじゃなくて優作さん自身じゃなかったでしたっけ?

ショーケンの新書に書いてあったような気がするのですが、確かめていないんですよ。
もしかしたら「越境者」で読んだのかな。

とにかく、喜んでいただけてうれしいです。

実は、もうひとつ、書きたかったことがあるのですが、やめました。

No title
わ、ずるーーーいっ(笑)

でも、その場にいた人の特権ですね。

>私も眉唾ものと思っています。

ホントですか!?
嬉しいなあ、どこで言っても相手にされません。
ウィキペディアにも書いてますしねえ。
showken-fun さん
昨日、「226」のラスト30分と「いつかギラギラする日」を観てきました。
皆勤賞です!

「影武者」と「居酒屋ゆうれい」も観たかった。
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top