前項から続く

2015/02/14

 「エクソダス:神と王」(TOHOシネマズ日劇)

 予告編で「エクソダス:神と王」を知ったとき、監督がリドリー・スコットというところに興味を覚えた。SF映画「プロメテウス」は残念な結果になってしまったが、史劇ならまた力を発揮してくれるのではないか。「グラディエーター」の剣の戦いの迫力と家族愛を謳いあげた感動が忘れられないのだ。

 予告編は何度も見たが、最初、タイトルの意味について考えることはなかった。
 エクソダス。エクソシストダス(デス)。エクソシスト+イミダスみたいな人を食ったような名称だな。そう思ったのは、村上龍の「希望の国エクソダス」が書店に並んだときだった。

 今回、調べてみたら、ヘブライ(ユダヤ)人のエジプト出国を意味し、旧約聖書の「出エジプト記」を指すことを知った。チャールトン・ヘストン主演「十戒」のリメイク的な意味合いがある。今回、モーゼに扮するのはクリスチャン・ベール。

 「十戒」は中学時代に映画館(もしくはTV)で観ているはずだが、海が割れるシーン以外はほとんど覚えていない。そもそも十戒とは何ぞや。聖書を知らないとこういうことになる。

 十戒とは、モーゼが神から与えられた10の戒律のことで、以下のとおり。

 1.主が唯一の神であること
 2.偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
 3.神の名を徒らに取り上げてはならないこと
 4.安息日を守ること
 5.父母を敬うこと
 6.殺人をしてはいけないこと(汝、殺す無かれ)
 7.姦淫をしてはいけないこと
 8.盗んではいけないこと
 9.偽証してはいけないこと(嘘を言ってはならない)
 10.隣人の家をむさぼってはいけないこと

 映画のラスト、ヘブライ人を率いて海を渡ったモーゼが石版に文言を刻んでいた。映画ではあまり重きを置かれていない。

 十戒のほかに十の災いというのがある。エジプト人の奴隷となっていたヘブライ人を救出するため神がもたらした十種類の災害のことをいい、この映画では天災としてCGを巧みに導入してリアルに描写されていた。映画の見せ場は次々に巻き起こるこれら災いの描写にあった。

 1.血の災い
 2.蛙の災い
 3.ぶよの災い
 4.虻の災い
 5.疫病の災い
 6.腫れ物の災い
 7.雹(ひょう)の災い
 8.イナゴの災い
 9.暗闇の災い
 10.長子皆殺しの災い

 第2の災いのシークエンスで膝を打った。大量発生した蛙がエジプト人の家まで侵入してきて、その気持ち悪さに阿鼻叫喚の構図となるのだが、これって「マグノリア」クライマックスの元ネタではないのか?! つまりあの空から降ってくる大量の蛙は聖書からの引用というわけだったのか。
 聖書については知らないことばかりだ。十戒も十の災いも調べなければ具体的なことは何もわからなかった。しかし、欧米(キリスト教圏)では基礎知識の一つなのだろう。
 日本でいえば「竹取物語」や「忠臣蔵」みたいな。たとえが悪いか。

 「十戒」では神が起こした奇跡として描かれる紅海が割れ、陸となった部分をヘブライ人が行進していくくだり。この映画ではあくまでも自然の摂理として描いているのが新鮮だった。引き潮だったという解釈だ。

 CGを使ったシーンはみなリアルで、実写と融合してスペクタクル映像を作り出していた。巨大な建物等はセットなのか、CGなのか、目を凝らしたが区分けがつかなかった。モブシーンに登場する人間などすべて本物に見えた。
 大きなスクリーンでスペクタクル映像を楽しむ映画、だと思う。ドラマ的には可もなく不可もなくといった感じなので。唯一グッときたのはラストのラスト、亡くなった弟、トニー・スコット監督への謝辞だった。

 シガニー・ウィーバーにまったく気づかなかった。普通、エンディングロールでわかりそうなものだが、何を見ていたのか。ちょっと恥ずかしい。
 モーゼの奥さん役の女優(マリア・バルベルデ)がきれいな人だった。


 【参考】
    
2000/03/21

 「マグノリア」(渋谷 パンテオン)

 いくつもの偶然が重なり合って起きた奇妙な3つの事件を紹介する前説がとても興味深く、これが本題(本編)につながる効果的なプロローグとなって、すぐに映画に引き込まれてしまった。
 生きていくことの悩みや過去の傷、さまざまな憎しみ、怒り、悲しみを抱えながら鬱屈した日々を営んでいる12人の主要人物たちの最悪な1日を同時間軸でいろいろ交差させながら描いていく演出が秀逸だ(ある時間枠では映画と実際の時間進行がシンクロしていたのではないか?)。
 3時間があっというまに過ぎた感じがする。時間の経過を気にせず観られたという点では同じような上映時間の「グリーンマイル」より上かもしれない。大事件や奇想天外な物語を扱っているわけではないのに、これは自分でも意外だった。

 主要人物それぞれのエピソードが、程度の差こそあれ、普遍的な問題を含んでいる。だから似たような体験をしていたり、人生に挫折したり、人間不信におちいったことがあるなら、登場人物の誰かに感情移入してしまって、映画の進行とともに身につまされ(あるいは考えさせられ)て、これからどんな展開になるのだろうかと画面から目が離せなくなるのである。
 最初から各人のエピソードの切り替えとつなぎが抜群にうまく、「確かこの緊張感あふれる描写はどこかで観たことあるぞ」と感じていたところ、かつての天才少年、今は過去の栄光だけで食い扶持をしのいでいるしがない中年男(ウィリアム・H・メイシー)が登場するにおよんで、傑作TVドラマ「ER」と同じタッチであることに気がついた。(「ER」では主人公たちの上司・モーゲンスタイン部長を演じている)

 登場人物たちの絶望が頂点に達した時、映画は彼らにとんでもない出来事を直面させて、苦悩やトラウマから解放させる。(今はやりの言葉で言えば、〈癒し〉がこの映画のテーマになっているわけだ)
 普通の感覚なら、この〝出来事〟を彼らの住む町を襲う台風とか嵐にするところだろう。だが、若干28歳の才人ポール・トーマス・アンダーソン監督はそんな生半可のことでは現代人の神経的病は癒えないと判断したのか、まことにもって信じられないものを空から降らせるのだった。
 このビジュアルショックは今まで経験したことがなく、僕は最初はのけぞり、それが現実であることで目が点になり、しまいには笑いがこみあげてきた。(恐怖が頂点に達すると笑ってしまう感覚に似ている)

 この空から異物が降る現象は実際にあって、映画だからその描写に誇張はあっても全くの嘘というわけではない。が、この場合そんなことは関係ないのではないか。親の愛を受けられない孤独な(現在の)天才少年が図書室でこの現象を目の当たりにして「こういうこともあり得る」と笑顔でうなずいたように、観客もこの現象を素直に受けとめればよい。
 純文学を読んでいたら突然ホラー小説になってしまった、自然風景画の展覧会を鑑賞していたら、得体の知れない抽象画がまぎれこんでいた、というような違和感(ものがものだけに嫌悪感か?)を与える展開かもしれないけれど、心をピュアにすればすんなり受け入れられると思う。映画ってそういうのも〈あり〉なのだ。 (その予兆はクライマックス前に描かれたミュージカル風シーンにあった。今までのリアルな世界観があそこで一度壊されている。この映画が<何でもありの世界>であることを予告しているように思えてならない。)

 僕は新旧の天才少年に感情移入していて、特に顔面を腫らしたダメ中年男が新しい人生を歩もうとする姿がいとおしかった。
 久々にすがすがしい気持ちにさせてくれた映画だ。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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