2015/02/05

 「神々の汚れた手 旧石器捏造・誰も書かなかった真相」(奥野正男/梓書院)

 この捏造事件については、事件発覚から2年後にスクープした毎日新聞取材班の本を読んでいる。事件そのものは捏造実行者・藤村某の単独犯として一応の解決を見たが、彼を利用していた関係者はまったくの無実なのか、共犯者ではなかったのか、と著者は本書で激しく糾弾するのだ。

     ▽
2002/12/17

 「発掘捏造」(毎日新聞旧石器遺跡取材班/毎日新聞社)  

 2000年11月5日、日曜日の早朝、偶然ラジオでこの事件を知った。毎日新聞のスクープを伝えるニュースだ。  
 参加すればかならず石器を発掘することができる、そんな神業的な業績に対し、関係者から〈神の手〉と呼ばれていた東北旧石器文化研究所副理事長の藤村新一氏が実は遺跡を捏造していたという事実。毎日新聞は以前からこの噂を聞きつけ、その決定的瞬間を狙って秘密裏に藤村氏の行動を追い、ついにその現場を連続写真で撮影することに成功する。

 
 このニュースを知った時、「やっぱり」、「そんなバカな」という両極端な気持ちが交叉した。  
 世の中には確率というものがある。どんなに発掘技術に優れていたとしても、その人が掘ると石器がでてくるなんてことがそうそうあることではないのは素人でもわかる。何かあるのではないかと思うのが当然である。しかし、関係者の間では藤村氏が石器を発掘するのは、当たり前のこと、藤村氏に関してはそういうこともありうると判断していたというのだ。
 
 とはいえ、遺跡発掘の捏造は個人的な業績だけにとどまらない。現に藤村氏グループの発掘によって日本の歴史認識が大きく変わったのである。オリンピック選手が、金メダルを狙って筋肉増強剤を服用するのとはわけが違うのだ。個人的名誉だけのために、いかさまを画策することなどあるはずない。そんなセコイ考えを持つ人間が考古学にたずさわるわけがない。  

 事実が明らかになってからの記者会見も不思議な光景だった。  
 通常、事件の主犯者がそういう会見に出席することはない。ところが藤村氏の場合は本人も同席していた。記者たちの質問の集中砲火を浴びながら、答えられない姿が見るに忍びなかった。  
 遺跡調査や発掘に多少関心はある。僕の〈職人フェチ〉からくる部分が大きいのだが、こつこつと掘り出した化石からはるか昔に思いを寄せるロマンがたまらないと思うのだ。コミック「MASTERキートン」の影響もある。発掘作業に携わる友人もいて、話をきくたびにうらやましいと思っている。  
 この事件が起きてからというもの、事態がどう進行していくのか興味深かった。本書が緊急出版された時もいの一番に飛びつきたかった。(にもかかわらず2年も経って読むのはどうしてかという意見が聞こえてくる……)  

 なぜ藤村氏は捏造という愚挙にいたったのか。その要因はどこにあったのか。その結果どんな罰を受けるのか。  
 僕なりの疑問を持って読み始めたのだが、そんなことより取材班がスクープをものにするまでの経緯がスリリングだった。かなり手に汗握るのだ。簡単に隠し撮りに成功したわけではない。失敗があっての賜物なのである。一度撮影に失敗した時の失望感はいかなるものだったか。ビデオカメラに対する認識の甘さも記者にあるまじきこと(笑ってしまったけど)。  
 困難な末に得られた証拠物を持って、敵陣に乗り込む記者の気持ちも想像するだけでワクワクする。
 
 考古学界の体質が「MASTERキートン」に描かれるものとほとんど大差ないことに驚いた。藤村氏の独断で捏造は行われたらしいが、お墨付きを与えた学会の大御所大学教授ならびに東北旧石器文化研究所理事長にも責任があると思うのだが。  
 そういえば、事件から2年経つというのに、歴史の教科書が書き換えられたということ以外ほとんど伝わってこない。いったい彼らはどうなったのか。    

 毎日新聞に連載されたものだからか、文章中に出てくる〈捏造〉はすべて〈ねつ造〉と表記されている。読んでいてどうにも気持ち悪い。そんなに当用漢字にこだわるのなら書名も同じく「発掘ねつ造」とすればと言いたくなる。それはあまりに見た目が悪いというのであれば書籍化する際に文章をすべて〈捏造〉に改めればいいのだ。
     △


2015/02/10

 『旧石器遺跡「捏造事件」』(岡村道夫/山川出版社)

 糾弾された関係者の一人で一番藤村某との結びつきが強いと思われる著者が事件を振り返った本。糾弾する側と糾弾される側の本を続けて読めば、何かが浮かび上がってくるだろうと思って一緒に借りてきた。
 最初から藤村某と距離をとる著述がずるい。被害者面なんてしてほしくない。

 事件についてまったく何も知らず、真っ新な気持ちで 「神々の汚れた手」と本書を読んだら、本書に書かれたことを信じてしまうのではないか。読みやすいし(文章だけではなく、本の体裁すべてを含めて)、筆致は冷静だし。それに比べて「神々の汚れた手」は最初から怒りまくっているから、その分引いてしまうところがある。


2015/02/12

 「部落差別をこえて」(臼井敏男/朝日新書)

 朝日新聞(夕刊?)に連載された記事が新書になった。といっても、連載時に読んだのは紙ふうせんが「竹田の子守唄」について取材された回だけ(それもwebで)。通して読むと様々な人たちが取材されていることがわかる。
 僕が同和問題に初めて触れたのは、高校時代に読んだ狭山事件の本だった。ミステリの一つとして狭山事件に興味を持ち、何冊かの関連書を読み始めたのだが、逮捕された男が本当に真犯人なのか、もし、男が冤罪なら真犯人は誰か、という点はいつしか忘れ去られ、男の出自、ゆえの差別、不当逮捕が強調されてからは、読むのをやめてしまった。
 本書のまえがきで同和問題を取材していると著者が答えると、皆黙ってしまうのは、だからわからなくはない。


2015/02/14

 「予知夢」(東野圭吾/文藝春秋)

 探偵ガリレオシリーズの第2弾。
 オカルトチックな事件の数々を湯川助教授が科学的に解明する。
 時間つぶしにはもってこいの本である。


2015/02/17

 「落語物語」(林家しん平/角川書店)

 著者が監督した映画の小説版。映画のときも思ったのだがタイトルが平凡すぎないか。
 前座の主人公の一人称なのだが、途中でおかみさんの主観描写が挿入されたりして、読んでいてイライラする。最初から三人称にした方がよかったのに。師匠とおかみさんのキャラクターが秀逸。映画では誰が演じたのか。ピエール瀧と田畑智子か。DVD観てみよう。


2015/02/18

 「一流の人はなぜ落語を聞くのか」(立川談四楼/ベストセラーズ)

 師匠が語ったことをライターがまとめたものと知り、図書館で借りた。まず小説家・立川談四楼のファンとしては、師匠の書いた文章が読みたい。いや、文章はあくまでも談四楼節でとても平易、なおかつ読みやすいんですよ。落語もしくは談四楼初心者にお薦めする。
 一つ誤植を発見した。平成天皇は今上天皇だろう。口語で「平成の天皇」と言ったのを、ライターが書き間違えたか。


 この項続く




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kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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