DVDでWOWOWドラマ「レディ・ジョーカー」を観た。
 前作「マークスの山」がそうだったように、「レディ・ジョーカー」も映画を凌駕する出来になっている。
 「マークスの山」と違うのは、面白さが最後まで持続していることだ。第1話が終わると引き続き第2話を観たくなり、同様に第3話が気になってしまう。
 ただ、これには僕自身の小説に対する愛着度の差に要因があるかもしれない。

 ドラマ「マークスの山」が映画より出来が良くても傑作にはならなかったと感じたのは、こちらがあまりにも小説に対して思い入れが強すぎたからであり、原作を知らなければ十分面白かったかもしれない、と今では思っている。
 何しろ「マークスの山」は何度も読み返しているのだ。どうしても映像作品を小説と比べてしまう。対して、「レディ・ジョーカー」は単行本を一度読んだきりなので、それほど小説世界と比較することがない。

 時間も関係している。「マークスの山」以上に人物が入り乱れる複雑な物語の「レディ・ジョーカー」は2時間前後の映画で描ける内容ではないのである。

 ドラマ「レディ・ジョーカー」は第1話のみ68分で、第2話~第7話は各50分となっている。計368分。民放のTV局の1時間ドラマは実質45分(NHKの大河ドラマや木曜時代劇は45分)だから、「マークスの山」のレビューで書いたように長編小説をきちんと映像化するには1クール必要なのである。

 単行本上下2冊の「レディ・ジョーカー」は文庫化(新潮文庫)されて上中下の3冊となった。DVDも上中下の3巻で、上巻には第1話~第3話、中巻に第4話、5話、下巻に第6話、最終話が収録されている。

 日之出ビール社長(柴田恭兵)が誘拐から解放される冒頭からドラマに釘づけになってしまった。丁寧に作られていることが映像全体から感じられる。前述したように1話が終わると次が気になってしかたない。原作を読んでいてこうなのだから、原作を知らない人が観たらどうなるのか。
 犯人グループ、被害者側、警察、マスコミ、それぞれの人間模様が無理なく描かれる。脚本は前川洋一。演出は水谷俊之と鈴木浩介。

 キャスティングが巧い。
 最初、薬店店主役の泉谷しげるに違和感があった。この人に犯罪グループのリーダーが務まるのか、と。映画の渡哲也は立派すぎるだが、泉谷だと崩しすぎではないかと。
 ただ、あるシーンから気にならなくなった。一人息子を亡くして、その原因を知った薬店店主の娘が父親を激しく非難するくだり。結婚相手の出自についてなぜ調べなかったのか、調査するのは親として当然の義務だろうと泣き叫ぶと、「そんなことどうでもいいことだと思った」と言いたげな何ともたよりない表情を、泉谷しげるがするのだ。これで変なわだかまりは氷解した。実際リーダー的な役割でなかったし。

 特筆すべきは不良刑事役の豊原功補である。映画の吉川晃司も悪くなかったが、合田雄一郎役の徳重聡が新人だったから、バランスがとれず損をした。ドラマの豊原功補vs上川隆也なら文句ない。役者としてのキャリアという観点からも二人の立ち位置が推察され、それが劇中のエリート刑事に立てつく不良刑事に重なる……なんてことは考えすぎか。

 自らの不正は隠蔽しようとする警察機構の体質を盾にして大胆にも居直ろうする不良刑事、警察機構への不信から捜査を逸脱して真犯人に迫っていく合田刑事。二人が内面から醸し出す静かな狂気により、クライマックスの対峙、対決までのサスペンスが生まれた。
 刺傷事件が雨の中で起きたことで神経をざわつかせる。最初から不良刑事が包丁を持っていることをわからせたのはちょっと興ざめだったが。このエピソードに関しては、映画で不満だったことがすべて解消されていた。

 小道具のビール(日之出ビール)のパッケージデザイン等、かなり手の込んだもので、劇中効果的に使われている。
 総会屋への利益供与で逮捕される社長(柴田恭平)と副社長(益岡徹)が、警察がやってくる前にビールを飲むシーンはビールが実に旨そうだ。

 ひとつだけわからなかったことがある。姪に送った社長の手紙の内容だ。自分が殺されること、殺されたのちに手紙が読まれることを知っていた。
 総会屋を裏切ったのだから復讐されるのはわかっていたかもしれない。警察にも見捨てられた。だから殺されるかもしれないと書くのはわからないではない。しかし、手紙が姪の目に触れる前に殺されてしまうなんてことまでわかるものなのか。社長はその情報をどこで知ったのだろうか。
 もう一度小説をあたってみよう。

 それにしてもWOWOWのドラマは秀作ぞろいだ。TBSと共同制作した「ダブルフェイス 前編・後編」や「MOZU」シリーズが秀逸なのはWOWOWのおかげなのか。実際には一般の映像プロダクションが制作しているだから(クレジットは制作協力)、WOWOWのプロデューサーが優秀といえるのかもしれない。
 「マークスの山」「レディ・ジョーカー」の制作は東阪企画。朝日放送の名物ディレクター・プロデューサー澤田隆治が設立した東阪企画はかつてバラエティ(演芸)番組を得意としていたのに、いつからドラマも作るようになったのだろうか。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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