2015/04/11

 「ソロモンの偽証 後篇・裁判」(MOVIX川口)

 たとえば、落語でも芝居でもいい、目の前で披露されている落語や演劇が稚拙な出来だと、舞台を凝視できなくなってしまう性癖がある。演者を見ているのが恥ずかしくてたまらない。そんなときどうするかというと、目をふせて、音(台詞)だけを聞くことにしている。

 映画でもたまにそういう状況に陥ることがある。いわゆる自主映画で、あまりにも台詞や演技が青臭い場合だ。
 前編ではまったく感じなかったこの気恥ずかしさが後編、とくに前半部分で何度もあって、そのたび僕は目をつむっていた。あるいは眼鏡をはずしてボケたスクリーンを眺めていたり。理由は自分でもわからない。中学生同士のやりとりがどうにもこうにも恥ずかしかったのだ。
 もし前編と後編を続けて観ていたのなら、どうだったのか。

 前編では、大長編小説を映画用にうまくまとめたと感心した。しかし、後編になると、そのまとめ方に不満がつのる。
 「ソロモンの偽証」は群像劇なのである。さまざまティーンエージャーが、それぞれの問題を抱え、苦悩する。泣き叫び、さまよい迷って、そして、なんらかの折り合いを見つけ、安穏な生活を取り戻す。小説ではそんな様子が描かれている。

 その一人、野田(前田航基)は映画では学校内裁判で被告人・大出(清水尋也)の弁護人を担当する神原(板垣瑞生)の助手でしかなかった。不審死した柏木卓也(望月歩)には兄がいて、弟に対してあるわだかまりを持っているのだが、映画では存在すらしていなかった。
 大出たちの素行の悪さ、同級生や他校生に対する苛めは映画の比ではない。新任の女教師(黒木華)とマンション隣人(市川美和子)の対立と葛藤も同様だ。

 肝心の柏木卓也がどういう少年で、なぜ不登校になったのか、同級生たちにどのように見られていたのか。小説ではきちんと語られていたから、クライマックスに衝撃が走るのではないか(別に小説でも衝撃は受けなかったのだが、それまでの印象を破壊するダメージはある)。映画の柏木少年は最初から性格破綻者でしかない。
 学校内裁判は結論を導き出す段取りでしかなかったし……。

 不満はまだある。
 1991年という時代がまったくというほど感じられなかった。
 映画自体が母校に赴任したヒロイン(尾野真知子)が校長に話す回想であるにもかかわらず、その回想の中でまた回想がでてくる。回想シーンは前編でもあったが、後編ではクライマックスのここぞというタイミングで大々的に切り替わるのだ。この作りが手垢のついた演出というかダサいというか。
 そして、その回想は現場にいた当事者としてのものだ。現場を立ち去ったなら立ち去ったなりの内容にならなければいけない。にもかかわらず、カメラは神の視点を持ってしまって、屋上に一人残された少年の行動を追ってしまうのだからなにをかいわんや。

 小説のように、回想ではなく1990~91年を描き、ラストで現代(2015年)に飛ぶというのではいけなかったのか。
 真相解明の要となる電気店が変な作りだ。
 演出がこなれてない印象を受けた。カメラワークを含め鼻につく。
 細かい部分に神経を注いでいない。

 観ていて気恥ずかしさや不満を感じながら、後半になると、スタッフ(プロデューサー、シナリオライター、監督)のメッセージは一直線で伝わってきた。目頭が熱くなった。素直に受け止めたいと思った。
 人間関係にあれこれ悩んでいた14歳の自分がこの映画を観たらどんな感想を抱くだろうか。

 裁判中に神原だったかヒロインだったかが言った言葉は、そのまま、エンディングの主題歌(U2「With or Without You」)に直結する。なるほど、前編のエンディングで流せないわけだ。

 デブで心優しい女の子親子のエピソードは涙なくしては見られない。

 後編を観終わって、この2部作は同時公開すべきだったと思わないではいられなかった。本当なら4時間強の「ソロモンの偽証」として公開すべきだった(当然途中で休憩が入る)。
 せめて、同時公開にして、前編と後編を交互に上映、続けて観てもよし、別の日に観てもよしというような環境を作るべきだったのではないか。前編の半券を提示すれば後編は特別料金で観られるような特典(もちろん前売券も同様)もつけて。


 

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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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