2015/04/14

 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(TOHOシネマズ シャンテ)

 ①
 バードマンと聞いてパーマンのお師匠さんをイメージする人は80年代にコロコロコミックを愛読した藤子不二雄ファンだろう。アニメならカラー版「パーマン」に夢中になった世代。モノクロのアニメに親しんだ世代にとって、パーマンの師匠はスーパーマンだった。スーパーマンからスーを取ってパーマンなのだから。著作権(?)の問題でスーパーマンがバードマンになったわけだ。「オバQ」のゴジラはどうなったのだろう?

 ②
 「バードマン」のポスターに描かれているバードマンの横顔イラストを見て、コンドルのジョーみたいと思った人は、劇中に登場したバードマンに対して、もしハリウッドで「科学忍者隊ガッチャマン」が単独ヒーローものとして実写化されるとこんな造形になるのではないかと考えなかったか? 20年前に大ヒットしたという「バードマン」とは一人ガッチャマンだと。で、いくらリアルといっても羽毛は気持ち悪いと。

 ③
 監督のアルハンドラ・ゴンサレス・イニャリトゥ。この名前をきちんと発音できる人は手を挙げて! アルハンドラ・ゴンサレス。ここまでは問題ない。続くイニャリトゥでいつも脱力してしまうのだ。イリャニトゥと間違えてもしまう。お稲荷さん二つとでも覚えるか。稲荷ツー。
 メキシコ語で書くとAlejandro González Iñárritu。日本語になると、なぜゴンザレスではなくゴンサレスなのか?

   ◇

 イニャリトゥ監督の作品は、プロットだけを聞くと、昔からよくある話で、普遍性はあるかもしれないけれど、特に新鮮さはない。
 「バベル」がそうだった。普通なら4つのエピソードが並ぶオムニバス映画にしてしまうところを、時間軸をずらしながら並列にカットバック的につないでいくことで緊張感が増し、面白さが倍増した。

 本作も同じことがいえる。かつてあるジャンルで人気を博していたのに今はパッとしない俳優が再起をはかる……なんてよくある話。ところが、イニャリトゥ監督の手にかかると、臨場感あふれる斬新なドラマに様変わりしてしまうのだ。

 この映画の紹介文(あらすじ)を読んで、自分なりに映画世界を想像して映画を観ると面食らうだろう。映画は芝居の初日を数日後に控えた俳優たちの今現在しか描かない。それも徹底的に人物に寄って片時も離れない。楽屋、舞台、舞台裏、劇場近くの酒場…… まるで、役者のすぐ近くそばで芝居を観ているようだ。役者の唾が飛んできそうな臨場感、なおかつ、一部始終を1カットで撮っているからその緊張感には並々ならないものがある。

 1シーン1カット撮影、実際に最初から最後まで1カットで撮影されているわけではない。要所々で長回しで撮影しているものを、最新技術で切れ目なくつないでいるのだが、そうとわかっていてもドキドキしてしまう。
 たとえば主人公の楽屋のシーン。鏡があって、あきらかにカメラが映りこんでしまう角度で撮られているのに、鏡にカメラ及びカメラマンの姿はない。
 屋外から屋内へカメラが移動するシーン。窓のところにはちょっとした遮蔽物があってカメラはすんなり通り抜けられないはずなのに、何の問題もなく入ってしまう。
 どちらも、いったいどうやって撮影しているのか。

 それはともかく、そんな長回し映像は現実と(主人公の)妄想が入り乱れる。描かれているものすべてがリアルではないのだ。また、1カット撮影で映像が途切れないからといって時間も続いているかというとさにあらず、たまに時間と空間が飛ぶ。にもかかわらず、映像は1カットなので今そこにいた人がここにいるなんてこともあるわけだ。
 始終鳴り響くドラムは最初劇場前の路上ライブの音だったのに、いつのまにか劇場内で演奏していたなんてことも。

 映画初心者には取っつきにくい映画かもしれない。まあ、主人公の心象も画となり音となっていると思えば良い。というか、そういうものと割り切れば悩まなくてすむ。

 映像と音で主人公の焦燥が伝わってきてイライラが募り、やがて彼がどんな結末を迎えるのか不安になってくる。
 後半、ビルの屋上に上ってからなんて、いつ飛び降るのか(投身自殺するのか)、冷や冷やもんだった。
 飛んだ(死んだ)! と思わせて、本当に飛行シーンを描いてホッとさせる(関係ないけれど、怪獣映画ファンとしては、バードマンvs怪鳥をもっと観たかった)。
 そのまま、芝居初日になだれ込み、楽屋に戻った主人公が棚から本物の××を手にしたときに「そういうことか!」。

 ――さて。
 ラストのシーンはどう解釈すべきなのか。あれこそ主人公の夢なのか。
 娘が窓の上の方を見て微笑むエンディングに心が和んだ。もちろん、現実は正反対の結末なのだろうけれど。

   ◇

 ④
 20世紀FOXサーチライトの配給作品ということもあり、観賞後「ブラック・スワン」を思い出していた。「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」は、「ブラックスワン」の演劇バージョンではないか。

 ⑤
 「パンズ・ラビリンス」も同じようなラストだった。デル・トロ監督もメキシコ人。ハッピーエンドと思わせる悲劇というのはメキシコの伝統芸なのだろうか。

 ⑥
 この映画の面白さがわからない人、あるいはノレなかった人には、同じような題材をハリウッドの王道で映画化した「ギャラクシー・クエスト」をお薦めしたい。


 【追記】

 目の前の列に3人組のサラリーマンが座った。真ん中の男性が、特に面白いとは思えないところで大声で笑う。そういうことが何度かあった。
 芝居の最中、ふとしたはずみで劇場の外に追い出された主人公が、パンツ一丁で裏から正面にまわって、無理やりクライマックスの芝居に参加するシーンは爆笑もの。笑えることは確か。なのに、この男性はクスリともしなかった。
 笑いというものは、ほんと難しいと思った。

 【追記】その2

 字幕スーパーに色がついていたことに驚いた。その色だが、僕には黄緑っぽく見えたのだが、ネットでは黄色とある。劇場によって、若干色が違うとか?

 【追記】その3

 主演のマイケル・キートンがアカデミー賞・主演男優賞を受賞するかどうか話題になったが、個人的にはエドワード・ノートンの演技に注目した。確かに才能あるけれど(それは認めるものの)、絶対つきあいたくない嫌な奴、いるんだよなぁ。
 ブロードウェイデビュー女優のナオミ・ワッツに大喜び。娘役のエマ・ストーンが若かりしころのゴールディー・ホーンに見えた。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
ワイルド・ワンズのリーダー逝く……
NEW Topics
告知ページ
BC20世紀 賄い料理その2
「花戦さ」&「22年目の告白 ~私が殺人犯です~」
「美しい星」
1分間スピーチ #15 倉木麻衣と宇多田ヒカル
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その4
ちょっとひとやすみ その4
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その3
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その2
「DONT LOOK BACK」
Comment
No title
「バードマン」は泰代さんも見に行ったとラジオで紹介してました。当たり前に見た感じ方は違うと思いますが、keiさんのように感想を聞いてみたいものです。たぶん私は1年後ぐらいにTUTAYAで借りるパターンかな~「そういえば・・」と思いだしながら。
ジンギスカン さん
そうですか、平山さんも観たんですか。感想は述べていなかったのですか?

私はラジオを聴いたことはないけれど、毎週ブログを閲覧しています。リクエストの手紙を書いたんですが、リスナーでないとダメみたいですねぇ。
No title
すいません・・感想も言っていたと思うのですが その時はどうしてバードマンを? という頭が働きまして 赤い鳥の鳥つながりで関心を持ったのか? ストーリーに関心を持つのか? 俳優名? どういう基準で映画を選ばれるのかも私的に関心のある部分です。なんせ御一人で見に行くらしいので、ジャンル的にどうなんでしょうか? バードマンはラブストーリー? アクション? パロデイ? 話題になっているものなんでしょうか? そんな事を考えているうちに曲紹介にはいってしまいました~  今度聞いてみたいですね。
ジンギスカン さん
話題の映画だからじゃないですか。
ワイドショーの司会者としては、そこらへんにも目配せしなければなりませんし。
今年のアカデミー賞の最右翼でしたし、内容的にも興味深く。
ジャンルはブラックコメディです。
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町のブックカフェ二十世紀で働いています。さまざまなイベントを企画、開催していますので、興味あれば一度覗いてみてください。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top