5月1日はもともと日比谷で映画を観ようと思っていた。
 まずTOHOシネマズ スカラ座・みゆき座で「セッション」、続いてTOHOシネマズシャンテで「グッドライ いちばん優しい嘘」という流れ。
 GWに入る前、特撮仲間のSさんからメールが来た。「パトレイバー、どうしますか?」

 Sさんとは、これまで国内外問わず、期待の、あるいは気になる特撮映画が公開されると一緒に鑑賞している。
 一昨年は「パシフィック・リム」「ガッチャマン」、昨年は「GODZILLA ゴジラ」「キカイダー REBOOT」。二人のときもあるが、もっと多くの仲間が集うときもある。
 鑑賞後の、映画を肴にした呑みが楽しい。

 もちろん、GW中に「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」は観るつもりでいた。Sさんを誘おうかとも考えた。が、Sさん、まだ子どもが小さいし、GWは家庭サービスだろうと、一人で鑑賞するつもりでいた。1日は仕事だというので、だったら職場近くの新宿ピカデリーで観ようとメールした。
 「セッション」はTOHOシネマズ新宿でも上映しているのである。で、これが4月にオープンしたTOHOシネマズ新宿デビューになるわけだ。

 1日、2回めの13時30分(だったと思う)を狙って、11時に新宿に着いた。屋上から首をだしたゴジラに見とれながらビルに入る。3階のチケット売り場へ。
 嗚呼!! 掲示版は2回目の「セッション」チケットが売り切れていることを告げていた。だったら「シンデレラ(字幕版)」は……
 「シンデレラ(字幕版)」も売り切れだった。サービスデーを甘く見ていた。

 あわてて、新宿ピカデリーへ向かった。もしかしたら、17時30分の「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」も売り切れているかもしれないと心配したのだ。チケットの心配をするSさんに、当日会ってから買えばいいのではと楽観視していた。公開初日の映画なのに。
 あぶない、あぶない、売り切れてはいなかったが、席はけっこう埋まっていた。

 夕方までの空いてしまった時間をどうするか。角川シネマ新宿で「グッドライ いちばん優しい嘘」を上映していた。15時の回のチケットを購入して、紀伊国屋で立ち読みしてから、劇場近くのドトールで遅めの昼食&読書で時間をつぶした。

 「グッドライ いちばん優しい嘘」は後半涙ボロボロだった。普通なら、トイレで顔を洗うのだが、終了が17時10分、新宿ピカデリーでSさんと20分に待ち合わせしているので、そのままの顔でピカデリーへ向かった。
 「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」は予想以上の出来。東京上空の空中戦は「千里眼」(2000年)以来の夢だったのだ。個人的にではあるが。

     ◇

2000/07

  「千里眼」(丸の内東映)

 ずいぶん前に松岡圭祐のデビュー作「催眠」の映画化に関するゴシップが作者自身の経歴詐称問題とともに「噂の真相」に掲載された。どこまでが本当のことなのかはわからないけれども、続編という名目で上梓された「千里眼」を読む限りでは、原作者として少なからず映画「催眠」に不満を抱いたことは容易に想像できた。

 小説「千里眼」は心理カウンセラーを主人公に心理学やカウンセリングを応用したミステリという点においては「催眠」と同系統といえるだろうが、登場人物も内容もまったく違うし、関連性はほとんどない。
 物語の展開についていろいろ追及していくとさまざまな設定に無理があって、傑作というものではないが、勢いでラストまで一気に読ませ、その面白さは保証できる。
 何より作者がたぶんに映画化を意識した作品であり、本格的に映画化されたら日本映画には珍しい第一級のエンタテインメント作品になるだろうと思った。

 かつて航空自衛隊のエースパイロットとして将来を嘱望されていたにもかかわらずある事件を契機に自衛隊を辞め、心理臨床士(心理カウンセラー)として<千里眼>の異名を持つ高名な脳神経科医師友里院長のもとで働くヒロイン・岬美由紀が日本壊滅を狙う謎のカルト教団と戦うミステリアクションともいうべき破天荒な物語である。

 日本全国で原因不明の爆発炎上事件が相次ぐ中、岬は友里とともに米軍横須賀基地に呼ばれる。爆発炎上事件は基地から何者かによって発射されたミサイルによるもので、今度は総理府に向けてミサイルが発射されようとしているという。
 基地に侵入した男はミサイル発射をセットし、パスワードを変更。このパスワードを解読して発射を阻止することが彼女たちに与えられた命題であった。パスワードの入力は3回まで。3回間違うと否応なくミサイルは発射されてしまうのだ。岬は男との対話、男が自決した後はビデオカメラに収められた男の表情からパスワードの数字をあてはめていく……。心理学とサスペンスを融合した見事な導入部である。

 読み始めたときはかつてエースパイロットで今は心理カウンセラーというヒロインの設定がどうにも嘘くさく感じたものだがクライマックスで納得がいった。
 カルト教団が仕掛ける罠をことごとく打ち破った岬は敵がさしむけた刺客と素手で戦い、満身創痍で最後の決戦にのぞむ。それが東京湾上空で展開される自衛隊機F-15同士のドッグファイトだ。教団に奪取され、東京を爆撃せんと発進したミサイルを塔載したF-15を追い、私服のままF-15に飛び乗るヒロイン。このヒロインの勇姿こそ作者が描きたかったものではないか、と確信したのだ。

 映画化作品ではスリルとサスペンスにあふれる導入部、単身敵に素手で立ち向かうヒロインの小気味良いアクション、そして特にクライマックスのドッグファイトが重要な要素になると思えた。

 小説は大興奮のドッグファイトのあとにエピローグとしてもうひとつのエピソードが描かれているのだが、読了した際、僕の中ではすでに映画のラストシーンが浮かんでいた。
 敵機を撃墜し、基地に帰還したヒロインがヘルメットを片手に颯爽と滑走路を歩く。彼女が髪をかきあげ笑顔をみせたところでストップモーションとなってスタッフ・キャストのロールタイトルが流れる……。

 というようなわけで、まるで自分がプロデューサーになった気分で「千里眼」の映画化に対してあれこれ思いをはせたのである。

 映画化にあたって心配したことは、

 1.アクションができてなおかつ心理カウンセラーの知性を感じさせる女優がいるだろうか?
 2.F-15機のドッグファイトシーンのリアルな特撮が可能だろうか?

 という2点だった。

 2.に関しては現在のCG技術の発達で何とかなるかもしれない。実際TV番組「ウルトラマンガイア」のとあるエピソードで演習ではあったけれど、目を見張るリアルな、興奮度120%の飛行シーンの特撮を見せられたので心配はなかった。
 が、1.に関してはどうにもぴったりな配役が思い浮かばい。アクションのできる女優はいるだろうけど、映画の主役ということを考えると一線で活躍する女優としてのネームバリューが必要で誰でもいいというわけにはいかない。
 やはり映画化はむずかしいかな、と考えていた頃、ヒロインに水野美紀決定というニュースをスポーツ新聞の芸能欄で知った。僕はまったく知らなかったが、水野美紀はかつて倉田プロモーションでアクションを習っていて、一度アクションものに挑戦したかったというのだ。彼女なら心理カウンセラーの役柄も十分こなせるだろう。
 映画には原作者もスタッフとして参画するというし、僕の映画「千里眼」に対する期待が一気に膨らんだ。

 映画化にあたって若干の変更があった。ヒロインは心理学の知識を持つ現役の航空自衛隊パイロットという設定。これは原作のミステリの要素より、ヒロインvsカルト教団の戦いを前面に押し出した結果だろうと喜んだ。へたにミステリ仕立てにするより、最初からヒロインのアクションと活劇で物語を引っ張った方がいい。また現役パイロットにすることで自衛隊組織、男所帯の中で自分の能力を発揮しようとするヒロインの葛藤が描けるというものだ。

 完成した映画の内容を知って愕然となった。一番期待していたドッグファイトが削除されているのだ。作者自身がシナリオに絡んでいて、原作のメインとなるエピソードをカットするなんて信じられない。これではヒロインの設定を変更した意味もなくなってしまうのではないか。
 観る前から先に抱いた期待はしぼんでしまったのだが、もしかしたら原作以上に緊迫したクライマックスが用意されているのかもしれない。そう考え直して映画館に向ったのだが……。

 映画はそれなりに観られる内容ではあるものの、とりあえず話をまとめてみたという印象が強い。
 現役の自衛隊パイロットにしたせっかくのヒロインの設定がほとんど生かされていないのが致命的だ。実際の操縦シーンがなくても、せめてヒロインがパイロットなのだと観客に認識させる小道具、描写は必要ではないか。
 映画を観る限りでは、ヒロインが自衛隊員でありさえすればいいように思える。いや自衛隊員でなくても(原作どおり友里の助手であっても)何ら問題はないのである。
 一ヶ所だけクライマックスへの伏線としてヒロインが自衛隊員である必要があるのだが、そんなもんどうにでもなる気がする。だいたい劇中に張られた伏線がその場で伏線とわかってしまったら何の意味もない。

 ドッグファイトに代って原作以上にスリリングな展開を期待していたクライマックスも冒頭の米軍横須賀基地におけるミサイル発射騒動と同じシチュエーションをもってきたことで、最初のアラが何かと目立って困ってしまう。
 敵はどうやって米軍基地内の、それもミサイル発射装置のあるセキュリティが厳しい部屋へ侵入できたのか? たぶん基地内にも仲間がいて、外部の人間を手引きしたのだろうが、そういった部分がまったく描かれていないから、話にリアリティが感じられない。

 クライマックスでは誤って発射されてしまったミサイルの爆発をどう防ぐか、ヒロインの活躍が描かれる。ミサイルが発射されてもどうにかなるのなら冒頭の騒動はいったいなんだったのか。パスワードを解読して未然に防いだことなんてほとんど意味がないように思えてしまうのだ。
 過激派集団「ミドリの猿」(小説におけるカルト教団)のボスが誰なのかという謎解きも、最初から友里のカウンセリングセンター所員を異様に描いているから容易に特定できてしまう。
 中盤爆破に巻き込まれ死亡したと思われた友里が再登場した時も、かすり傷ひとつ負わずにどうやって現場から逃れられたのか何の説明もない。
 東京湾観音内でヒロインと敵との一騎打ちで、水野美紀が惚れ惚れするようなアクションをみせてくれるが、これだって劇中では突然カンフーものに早変わりした印象になった感じで違和感を覚えてしまう。
 このように登場人物は単にストーリーを展開させるためのコマでしかなく、それもご都合主義で処理してしまうから興奮も感動もよばないのだ。

 何より脚本がまずいというべきだろう(演出的には、構図だとかタッチだとかいくつか見るべきところがあったと思う)。
 当初起用されるはずだった監督が降板したというのも脚本をめぐって原作者と意見の相違があったからに違いない。
 それにしても松岡圭祐はこの脚本で本当に面白い映画ができると思ったのだろうか。
 映画化にあたってはいろいろと方法論があるかと思う。映画「催眠」みたいに原作からキャラクターのみ借りてきて別のストーリーを組み立てるのも一つの方法である。
 水野美紀の体技を生かしたアクションものにするのか、ミステリとして謎の解明を主題にするのか、はたまた特撮を主体にした活劇に徹するのか。切り口を変えることで、いかようにでも映画はできるはずなのに、ストーリーをあくまでも原作どおりに、それも中途半端に進めようとするから無理が生じるのだ。
 原作者が映画に口だしても決していい結果を生まないという好例だった。いかにして映画を面白くするかというより、出版社主導のメディアミックスの方に興味があるようだ。

 P.S.
 誰か水野美紀の魅力を最大限に生かしたアクション映画を企画してください。TVの連続ドラマの準主役をやっている場合じゃないですよ! 志穂美悦子以来久々のアクション女優の逸材じゃないですか!!




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転載:「紙ふうせん&ラ・ストラーダ コンサート」
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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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