2015/06/05

 「セッション」(TOHOシネマズ シャンテ)

 ※ネタバレしています。

  「忠臣蔵」という芝居がある。日本人好みの物語で、これまで映画、TVドラマと何度となく映像化されている。
 赤穂事件を題材にした創作劇だから、内容にあれこれ言っても詮無いことはわかっている。が、しかし、高家肝匙という吉良上野介の立場、及び、勅旨饗応役の浅野内匠頭長矩との関係を考えれば、物語のような吉良と浅野の対立なんて起こるわけがない。

 高家とは江戸幕府において儀式や典礼を司る役職のこと。京都(朝廷)から勅使が来るのでそれを接待する役目に浅野内匠頭が任命された。この饗応役を指揮、指導するのが吉良上野介なのだ。
 物語の中では、浅野が饗応役の教えを乞うための賄賂を吉良に贈らなかったことで、吉良の怒りを買い、何かにつけて意地悪をされて、最終的に堪忍袋の緒が切れ、殿中で刃傷沙汰に及んでしまうという展開となっている。

 おかしいのは吉良の浅野に対する意地悪というところ。意地悪されて、浅野は饗応役の仕事を何度もしくじりそうになる。しかし、勅使を迎える儀式でミスが起きれば、恥をかくのは幕府なのだ。儀式のミスはそのまま吉良の責任とということになる。当然何らかの処罰を受けるだろう。吉良が浅野に意地悪なんてできるわけがない。吉良が、どんなに浅野のどんくささに頭にきても、京都からの勅使をきちんとお迎えして滞りなく進行させお見送りするまでは、きちんと面倒みるはずなのである。意地悪するならその後だろう、あくまでも仕事を離れたところで。

 映画「セッション」のクライマックス(の直前)で、この忠臣蔵と同じ疑問を感じてしまった。

 活字でこの映画を知ったとき、音楽業界の「巨人の星」だと思った。
 楽器が血反吐で汚れるというのは、実際のところ〈音楽家の心得として)どうなんだろうという素朴な疑問もあるが、鬼講師(J・K・シモンズ)のスパルタレッスンとそれに耐えてドラマーとしてたくましく成長していく青年(マイルズ・テイラー)、という構図はラストまで続くと考えていた。
 途中で青年がリタイヤ(退学~ドラマーの道を断念)してしまうのは予想外であり、青年のチクリで講師が学校を辞めさせられることもあって、映画の着地点がわからなくなった。

 二人が再会してからは、先の因縁があるので、講師の青年に対する言葉に何やら裏がありそうで不安でたまらない。講師に誘われてビッグバンドに参加した青年が、音楽祭のステージへ向かって階段を上っていくところなんて、誰かに刺されるのではないかとヒヤヒヤしていた。
 しかし何事もなくステージのドラムのところへ。

 ここからが、映画に仕掛けられたツイストだった。
 やはり、講師は青年に対する復讐を計画していたのだ。ステージで青年がうまくドラムを叩けずに赤っ恥をかかせる。それが狙いだったのだ。
 青年が事前に受け取っていた楽譜は、当日の演奏曲(「Whisplash」という曲でこれが映画の原題)ではなかった。それが今まさに演奏する直前にわかる。どうすることもできない。演奏はメタメタ。青年は、バンドのメンバーの、観客の、審査員の、非難の眼にさらされてしまう。

 なるほど、そういうことか――。
 しかし、よく考えてほしい。音楽祭で惨めな演奏になれば、ビッグバンド全体の失敗となり、それはとりもなおさず、バンド責任者(指揮者=鬼講師)のミスになるのではないか。いくら復讐のためとはいえ、プライドの高い(今後の生活もある)講師がそんな選択をするのだろうか。だいたいこのバンド、事前に練習は行っていないのだろうか。
 つまり、その後に用意されているクライマックス(ドラムソロ)から導き出された安直な処置であり、シナリオが練られていないということなのだ。最近のTVドラマ、映画でよく目にするパターン。
 
 とはいえ、その後のドラムソロは素晴らしく、もうそれだけで満足だ。音楽が醸し出す高揚感を体感できるという点からこの映画を認めてしまおうという気になる。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
転載:「紙ふうせんスペシャルライブ」
NEW Topics
告知ページ
BC20世紀 賄い料理その2
「花戦さ」&「22年目の告白 ~私が殺人犯です~」
「美しい星」
1分間スピーチ #15 倉木麻衣と宇多田ヒカル
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その4
ちょっとひとやすみ その4
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その3
紙ふうせんシークレットライブ 2017 その2
「DONT LOOK BACK」
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町のブックカフェ二十世紀で働いています。さまざまなイベントを企画、開催していますので、興味あれば一度覗いてみてください。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top