1978年に上京してからは、古書店に行けば「竹田の子守唄」を探した。あるわけがない。当時「竹田の子守唄」が橋本さんが自主出版した本(冊子)だなんて知らなかった。
 関西に帰った紙ふうせんの活動を自分一人では追いきれなくなって、80年代の半ば、FCに入会した。
 90年代になって、六甲山オリエンタルホテルの紙ふうせんクリスマスコンサートで「竹田の子守唄」に関するあれこれを後藤さんから聞く機会が持てた。橋本さんのこと、本のこと。メディアの規制のこと……。本を読みたかったが、在庫がないとのことだった。

 1999年、放送禁止歌にスポットを当てたドキュメンタリーが話題になり、ディレクターの森達也氏は2000年に同名の本を上梓する。
 2001年、紙ふうせんがゲスト出演した「ふしみ人権のつどい」で橋本さんと会うことができた。そこらへんのことは、以前も記したが本のレビューに書いているので夕景工房から転載する。

     ◇

2000/08/13

 「放送禁止歌」(森達也/デーブ・スペクター監修/解放出版社)

 昨年の5月、フジテレビで放送禁止歌を追及したドキュメンタリーが放送され、番組の中で当の禁止歌を流した。ということを知ったのは週刊文春の記事だった。
 文春の記事は代表的な放送禁止歌の何が放送コードにひっかかるかについて簡潔にまとめられていた。
 記事の中で特に注目したのは赤い鳥のヒットで有名になった「竹田の子守唄」に言及した部分。「竹田の子守唄」の歌詞にでてくる〈在所〉という言葉が部落をさしていて、それが放送コードに触れると書かれてあった。

 「竹田の子守唄」が京都の同和地区の伝承歌だと知ったのはだいぶ前だが、歌そのものをレコード化できない、コンサートで勝手に歌うと同和団体からクレームが入る、ということを教えてくれたのは赤い鳥のリーダーで紙ふうせんになってからもずっと「竹田の子守唄」を歌い続けている後藤さんだった。
 確かに90年代になって赤い鳥のアルバムがCDで復刻されたが、同曲が収録されているものは発売される気配がない。驚いたのは同曲のメロディに別の詞をつけた「人生」が収録されているデビューアルバム「FLY WITH THE REDBIRDS」のCDがリリースされた際には何と「人生」だけがカットされていたことだった。

 転機になったのは一昨年だろうか。赤い鳥の全シングルを集めた2枚組のCD「赤い鳥シングルス」がリリースされ、これには「人生」も「竹田の子守唄」もちゃんと収録されていた。(ちなみに今年5月にリリースされた紙ふうせんの久々のアルバムにも新しい歌詞を追加し新録音した「竹田の子守唄」が入っていて、これは必聴)

 文春の記事の元ネタになったのが本書であり、著者はドキュメンタリー「放送禁止歌 唄っているのは誰?規制するのは誰?」を企画・演出した森達也。番組のメイキングの形をとりながらより深く<放送禁止歌>に言及している。
  「手紙」(岡林信康)、「自衛隊に入ろう」(高田渡)、「黒いカバン」(泉谷しげる)「悲惨な戦い」(なぎら健壱)等々、懐かしい歌が登場してくる。 北島三郎のデビュー曲が「ブンガチャ節」といって放送禁止歌だったというのを初めて知った。山平和彦の、そのものずばりの「放送禁止歌」の歌詞には衝撃を受けた。四字熟語を集めた漢字だらけの一見意味不明の歌詞に見えて、実は前の熟語を後の熟語が否定あるいは揶揄する内容になっている。

 思わず購入してしまったのは最後の第4章をまるまる「竹田の子守唄」研究に費やしていることによる。
 世に出ている〈フォークソング史〉〈フォークソング研究〉本では簡単に扱われてしまう赤い鳥や紙ふうせんが登場し、後藤さんに取材もしている。改めて本のオビを眺めるとそこには後藤さんの言葉が載っているのだ。

 赤い鳥、紙ふうせんファンの僕として著者の「竹田の子守唄」に対する認識には疑問を感じる。本書の中で赤い鳥が「竹田の子守唄」が同和問題に抵触することを知ってから歌わなくなったと書いているが、そんな事実はない。解散間際のライブアルバム「ミリオン・ピープル」ではしっかり歌われているし、紙ふうせんのセカンドアルバムにも収録されている。だいたい紙ふうせんのコンサートで「竹田の子守唄」が歌われなかったことはないのではないか。
 赤い鳥時代の「竹田の子守唄」のメインヴォーカルは新居潤子(現・山本潤子)だった。解散後はハイファイセットとしてファッショナブルな都会風楽曲しか歌わなくなった(と思う)のでそこらへんのことを聞き間違えて認識してしまったのではないだろうか。

 この章は著者が「竹田の子守唄」の発祥から採譜、レコード化、ヒットした後の状況といった背景を丹念に取材し、また、わかりづらい歌詞の解釈を試みる。
 圧巻なのはエピローグ、後藤さんに電話取材して、後藤さんの「竹田の子守唄」に対する態度、その言葉に胸が熱くなって涙を流すラストである。
「部落にはいい歌がたくさんあります。抑圧されればされるほど、その土地や人々の間で、僕らの心を打つ本当に素晴らしい歌が生まれるんです。歌とはそういうものです。僕はそう確信しています。でもそんな歌のほとんどに、今では誰も手をつけようとはしない。誰も見て見ないふりをしている。だからせめて僕くらいは、これからもそんな歌を発掘して、しっかりと歴史や背景も見つけながら、ライフワークとして歌いつづけてゆきたいと思っています」

 ここまで「竹田の子守唄」に迫った著者には、できることなら電話取材だけでなく、実際の紙ふうせんのライブに足を運んで生の「竹田の子守唄」を聴いて欲しい、と思う。
 ギター1本の伴奏と二人の絶妙なハーモニーよって醸し出される深遠な世界に圧倒されるに違いないからだ。

     ◇

2001/02/13

 『メッセージ・ソング 「イマジン」から「君が代」まで』 (藤田正/解放出版社)  

 10日、京都の伏見区竹田にて「第6回ふしみ人権の集い」が開催された。〈ふしみ人権のつどい実行委員会〉が主催する毎年恒例のイベントに、今回参加したのは第2部がこの地から生れた「竹田の子守唄」について赤い鳥、紙ふうせんとこの伝承歌を歌いつづけている後藤悦治郎氏の講演があり、なおかつその後の紙ふうせんのライブでは地元合唱団による「竹田の子守唄」の元歌披露があることを聞きつけたからだった。

 メインの講演は後藤氏と音楽評論家の藤田正氏との対談に変更になっていて、実は喜んだ。紙ふうせんには伝承歌だけを集めたトーク&ライブをやってもらいたいと常々思っていて、やっぱりそのメインは「竹田の子守唄」になると思っているからだ(その他「いかつり唄」「もうっこ」「糸引き唄」等、いい歌はあるのだけど)。
 単純に歌詞だけではわからない伝承歌の背景、詞の意味を専門家と後藤氏のトークで解説、あるいは若かりし頃の伝承歌採譜の旅の思い出を語り、その後紙ふうせんによるライブで伝承歌を肌で体験してもらう、そんなイベントをライブハウスか小ホールでできないかなあ、なんて考えている。  

 それはさておき。  
 会場で紙ふうせんの最新アルバム「Saintjeum」とともに販売されていたのが、この「メッセージ・ソング」である。  
 古今東西、時代を超越しさまざまなジャンルからメッセージソングをピックアップして紹介している。メッセージソングというとどうプロテストソングとダブって、声高なある種思想ががっている、というか聴衆を先導する過激さみたいなイメージが(僕には)あるのだが、著者はもちろんあくまでもその歌の背景、歌詞の意味から主張を持っている歌たちをメッセージソングとして取り上げているに過ぎない。  

 取り上げられる歌はフォーク、ポップス、ジャズ、歌謡曲等さまざまで、もちろん「竹田の子守唄」も収録されている(昨年同じ出版社から上梓された「放送禁止歌」とリンクする部分も多く、特に新しい発見はなかった)。  
 何しろ冒頭は安室奈美恵の「LOVE 2000」なのだから驚きだ。詞の意味をかみしめると味わいがでてくるから不思議。  
 うれしかったのはボブ・マリーの「ゲット・アップ、スタンド・アップ」だ。映画「太陽を盗んだ男」で原爆を完成させたジュリーがちょうどラジオから流れるこの歌にあわせてビール片手にひとり祝いながら踊り出すシーンは傑作で、僕はこれでレゲエとボブ・マリーを知った。「権利のために立ち上がれ」のサビの部分くらいしか歌詞の内容を理解していなかったが、その背景、意味を知ると歌そのものに対する見方が変わってくる。
 
 ビリー・ホリデーの「奇妙な果実」というタイトルの意味も初めて知った。衝撃だった。CDを買おうかなと思っている。   
 「コンドルは飛んでいく」「アメイジング・グレイス」等々、紹介される歌に込められたメッセージの数々はそれこそ「眼から鱗が落ちる」状態。
 人種問題、差別問題、貧困、蔑視さまざまな要素がなにげなく読み飛ばしてしまう歌詞の中に込められており、関西からの帰り、新幹線、JRと乗り継ぎながら読み進むうち、涙が何度かにじんだ個所もある。もうこれ以上電車の中で読めないと、ページをとじてしまった。  

 藤田氏はホールでの対談後、後藤氏、後藤氏の高校時代の同級生でかつて「竹田の子守唄」の本質に迫った本を自費出版した橋本正樹氏、「竹田の子守唄」が全国に知られるきっかけを作った方の息子さんに取材している。  
 後藤さんの好意で取材の模様を拝見させてもらい、終了後、氏に取材の目的をお訊きすると、今秋上梓する「定本・竹田の子守唄」(仮題)に反映させるとのこと。
 期待してます。

 この項続く




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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