一応、承前

 ミュージカルを3階席から観劇。かつて一度だけ経験していた。12年前「エルヴィス・ストーリー」というロックンロールミュージカルを観劇しているのだ。3階でも十分世界にのめりこんでいた。
 3日が楽しみ楽しみ……

     ◇

2003/05/02

 「エルヴィス・ストーリー」(東京国際フォーラム Cホール)  

 何週間か前、週刊文春のグラビアで、あるアメリカ人男優のエルヴィス・プレスリーに変身する様が連続写真で紹介されていた。見事な変身ぶりに驚いた。素顔はまったく似ていないのに、メイクするとエルヴィス・プレスリーそのものになってしまうのだ。この俳優がロックンロールミュージカル「エルヴィス・ストーリー」の主役を演じるマルタン・フォンティーヌだった。  

 エルヴィスの、というか、プレスリー(僕の場合、プレスリーといった方が馴染みがあるので、以後プレスリーで統一する)の死を知った日のことは良く覚えている。  
 別にプレスリーに思い入れがあったわけではない。まったく別のことで記憶している。  
 プレスリーの死は1977年の8月16日。高校3年の夏休みの最中だった。彼の死を知った日、1年の時にあっさり振られた彼女のことがどうしても忘れられず、意を決してもう一度電話して、ふたりの仲のキューピット役を果たした共通の友人(女友だち、僕の幼なじみ)の家に遊びに行く約束をした。もしかしたらこれをきっかけにやり直しできるかもしれない。淡い期待があった。その日、プレスリーの死を知った。
 2日後、彼女と一緒にバスに乗って、最初に交わした会話がプレスリーの死だった。
「プレスリーが死んだね」
「……うん」
「42歳だって。若すぎるよね」
「……うん」  
 まったく会話がはずまず、それは女友だちとあってからも変わらなかった。その夜、僕は大いに落ち込みやけ酒をくらった。  
 プレスリーの死は、つまり彼女との別れを決意した日といっしょくたになって記憶しているのである。  
 関係ないか、こんな話。  

 僕にとってのリアルタイムのプレスリーというと、ドキュメント映画「エルヴィス・オン・ステージ」「エルヴィス・オン・ツアー」につきる。もちろんこの映画の存在を知ったのは、制作された時よりずいぶん後になってのことだが。ビートルズ映画「レット・イット・ビー」に影響されて、ミュージシャンのライブを追ったドキュメンタリーに興味を抱き始めた高校時代のことだ。ただし、白いジャンプスーツを着た太ったプレスリーには何の関心もわかなかった。  
 そんなわけで、「エルヴィス・ストーリー」を知って、生のステージのミュージカルを観たいとは思ったものの、金をだしてまでもという考えはなかった。そこに、チケットが当たったから観に行かないかと友人からの誘い。うれしかったなあ。  

 東京国際フォーラムに初めて入った。  
 Cホールはかなり広いホールで、3階の席からはステージの人物の顔がやっと判別できるくらい。  
 構成が斬新、というかコロンブスの卵というべきか。つまりステージではエルヴィス・プレスリーのあの日あの時のライブが再現されるだけ。そのライブとライブをつなぐのが後方に設置された2台のモニターから流れるプレスリーに関するニュースフィルム。ナレーションは赤坂泰彦が担当している。  
 メンフィスでの初のレコーディング、メジャーデビュー後の初ステージ、映画「監獄ロック」の1シーン、徴兵前のラストライブ、etc。  
 「監獄ロック」の名シーンを再現したセットのシンプルな美しさに目を見張った。スタイリッシュとはこのことかと納得できた。もう一つは復活したプレスリーが、マネージャーのパーカー大佐を離れて出演したTV番組を再現したセット。赤のイメージが強烈だった。  
 左隣の席が老夫婦といった感じのカップルだったのだが、男性の方が「完璧だ」とつぶやいていた。  
 プレスリー(何度も書いていると、どうにも「俺は田舎のプレスリー」を思い出してしまって困る、やはりエルヴィスにします)、エルヴィスの足跡についてはニュースフィルムが伝えてくれる。
 胸に熱いものがこみあげてきたのは、妻との離婚、愛娘との別れを知った時。よかれと思って妻に習わせた空手の先生との不倫、その後の逃避行。失意と傷心の日々。孤独を紛らわすためヤクに手をだすのもわかる。晩年、ぶくぶくに太った姿はその後遺症だったことを初めて知った。  

 単なるライブの再現(とはいえ、相当レベルは高い、それだけでも十分楽しめる)の羅列と思っていたものが、ある瞬間からまさにドラマになっていたのである。舞台のエルヴィスは、完璧な役作り、演技によるマルタン・フォンティーヌのエルヴィスのはずなのに、本当にそこにエルヴィス本人がいるような感覚に襲われた。ただ歌うだけなのに、その心の襞がこちらに伝わってくるのである。
 バンドメンバーは変わらず、にもかかわらず徐々にサウンドが厚くなっていくのが不思議。  

 こういう作りもあるのか、と感心した。同時に、これならいろいろ応用できるよなとヨコシマな考えを抱いた。
 まずビートルズストーリーができる、美空ひばり物語も可能だ。矢沢永吉ヒストリーなんてのも考えられるな。
 タダで鑑賞して、こんなことをいうとバチがあたるかもしれないが、もっと小さなホールでステージのエルヴィスのすべてを感じたかった。
 もし、大きなホールでやるのなら、ラスヴェガスのライブはビッグバンドにすべきだろう。それでこそ意味があると思う。予算の関係で無理なことはじゅうじゅう承知の上だけれど。

 それから。
 エルヴィスの汗を拭いて、お礼にキスをもらう観客の女性は仕込みなのだろうか。それとも一般の人なのだろうか。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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