一応前項から続く

 S さんの番がやってきた。自己紹介のあとシネりんスタッフがつけ加えた。
「染谷さんは『東宝100発100中! 映画監督福田純』という本をだして……」
 書名を耳にして思わず声をあげてしまった。「ええっ、そうなんですか!」
「それから、『特技監督 中野昭慶』という本も書いていて……」
「えええええっっっ!!!」
 もっと大きな声をあげてしまった。
「どちらも読んでいます」
 図書館から借りて、ですが。

 福田純監督と中野昭慶特技監督。二人は昭和40年代の東宝特撮怪獣映画に関係している。福田監督は「ゴジラ・モスラ・エビラ 南海の大決闘」「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」「ゴジラ対メガロ」「ゴジラ対メカゴジラ」。「……南海の大決闘」以外の特撮は中野特技監督が担当している。
 映画が斜陽を迎え、制作費が削られ、完全に子ども向けとなったゴジラ映画は無残だった。幼児のときに黄金時代の作品に触れたことのある中学生にとっては。
 特撮ファンの福田監督に対する評価は低い。ただし、無国籍アクションを得意としていてその手の映画では人気がある。小松左京原作の「エスパイ」はかなり期待したものだ
 中野特技監督も特殊技術名義で参加した「ゴジラ対ヘドラ」ではゴジラに空を飛ばせる暴挙にでた。やはりゴジラシリーズでは評価は芳しくないのだが、「日本沈没」で場外ホームランを放った。

 Sさん、いや染谷さんとはその後「日本沈没」談義。
「『特技監督 中野昭慶』を読んで、それまで抱いていた中野特技監督のイメージが変わったんですよ」
「その感想、読んだことありますよ。イメージを変えられたということで本にして良かったと思った」
 「特技監督 中野昭慶」は文庫になっている。
「今度買いますから!」
 6日(月)、仕事で池袋へ出てその帰りジュンク堂で購入した。

     ◇

2008/02/11

 「特技監督 中野昭慶」(中野昭慶・染谷勝樹/ワイズ出版)

 円谷英二亡き後、東宝特撮(怪獣)映画の特技監督として中野昭慶の名を認識したのは「日本沈没」だったと思う。映画が大ヒットして、TVのワイドショーに出演、「先生」とおだてられて胸をそらしながら饒舌に答えていたのを見てあまりいい印象を持たなかった。その印象をずっと引きずっていたところがある。

 特撮を担当した「ゴジラ対ヘドラ」以降のゴジラシリーズにはうんざりだったし、ゴジラが復活した84年の映画「ゴジラ」で決定的になった。旧態然とした特撮に幻滅したのだ。特に合成部分。本編の演出もそれに輪をかけてひどいものだったが。
 「日本沈没」「ノストラダムスの大予言」「東京湾炎上」あたりがピークなんだろう。そう考えていた。特に「日本沈没」における東京大地震のスペクタクルは今見ても(ミニチュアがバレバレにもかかわらず)よく出来ている。
 しかし、本書のインタビューでかつての悪印象はくつがえされる。もちろん態度はそのままなのだが、作品に対する誠実さが感じられるのだ。
 後期のゴジラシリーズのくだらなさも別に中野監督が悪いわけではない。予算のなさと完全に子ども向けにした会社の責任だろう。

 円谷英二の後継者になろうと東宝に入社したわけでもなかった。それは特技監督になっても同じことで、自分の作品を撮りたかったのだ。スラプスティックコメディが好きというところに好感を持った。助監督時代はさぞ〈出来る人〉だったと思う。この特撮助監督時代と一本立ちした70年代の特撮映画を語るくだりが怪獣世代としては興味深い。

 「海底軍艦」は、撮影期間が短く突貫作業だったらしい。その轟天号が宇宙を飛ぶ「惑星大戦争」はそれ以上にキツかった。しかし時代の違いか志の差か、完成した映画の出来、評価は極端だ。英国との合作「ネッシー」が実現していれば。
 大陸生まれ、育ちだということも初めて知った。引き上げ時の過酷さは壮絶だった。それをごくごく軽~く語るところがすごい。

     ◇

 【おまけ】

2006/08/21

 「日本沈没」~オリジナル版~(ビデオ)

 リメイクの「日本沈没」鑑賞後の帰宅時に借りてきた。夜遅かったので、途中で切り上げようと思いながら結局最後まで観てしまった。 新旧の「日本沈没」は「ポセイドン・アドベンチャー」と「ポセイドン」の関係みたいなものだ。久しぶりに見直してそう思った。

 小笠原諸島の小島が一夜にして沈んでしまったことを端に発し、日本列島に異変が起きていると察知した田所博士(小林桂樹)を長とする研究グループ。深海潜水艇〈わだつみ〉を使って、日本海溝に潜った際、そこで得体のしれない何かが起きつつあることを知った。
 潜水艇の操艇者・小野寺(藤岡弘)と玲子(いしだあゆみ)が出会った日、伊豆天城山が爆発した。続いて三原山等の大噴火……。
 危機を感じた山本首相(丹波哲郎)は田所博士を中心にプロジェクトチームを発足させた。異変調査を目的に秘密裏に始動した〈D計画〉。日本海溝を徹底調査した結果、近い将来日本国土の大部分が海に沈んでしまうことが判明する。田所博士がそう結論づけたとき、東京を直下型地震が襲った。未曾有の大災害。
 日本国土の沈下が決定的になると、山本総理は、国民をいかにして海外に脱出させるか、移住させるかという〈D2計画〉に着手する。特使による各国首脳との交渉が続く。
 小野寺は玲子とともにスイスに移住することを決意する。しかし出発のその日、突如として起きた富士山の大噴火によって交通は遮断され、ふたりの合流が不可能に……。
 交渉が功を奏し、世界各国が日本からの難民を受け入れることになった。次々と日本を離れる国民たち。日本各地の火山が噴火し、大地が裂けていく。こうして日本は地球上から姿を消した。

 地球のどこかで――。
 雪に覆われた大地を走り抜けていく列車に玲子の姿があった。太陽が照りつける草原地帯を走る列車には小野寺の姿が。ふたりが再会する日はくるのだろうか……。

 特撮仲間Sさんの、最近の怪獣映画(特撮ドラマ)についての感想を思い出した。
「最初から怪獣や宇宙人ありきの設定だから、ドラマがちっとも引き締まらない」
 謎がないから、サスペンスが盛り上がらない。

 リメイク版「日本沈没」はまさしくそういう作りだった。冒頭で日本が沈没する設定になっているのだから。40年後に日本が沈没するとアメリカの研究によって発表されているのである。
 40年後なんかじゃねぇ、沈没はもっと早くやってくるんだ! トヨエツ扮する田所博士が確信して映画は進行していくわけで。謎なんてどこにもない。起承転結でいえば、起をふっとばして承からドラマが始まっている。
 それに比べると旧作「日本沈没」は昔ながらの怪獣映画。第1作の「ゴジラ」だった。田所が「日本が沈没する」と確信するまでがかなり長い。
 観客は「日本が沈没する」なんてことははじめからわかっている。でもこの時間がじれったいか、無駄かというとそんなことはない。謎を解明するために学者たちが奔走する姿が後半のスペクタクル描写に活きてくる。タメは必要なのものなのだ。
 連夜の研究で疲労困憊した田所が船上に出て日本沈没を口にするやいなや、大きな揺れを感じる。第二次関東大震災の勃発で、しばらくの間当時としてはかなり出来の良い都市破壊のスペクタクル映像を満喫することになる。阪神淡路大震災の後にこう書くとと問題発言かもしれないけれど、子ども向けの「ゴジラ」シリーズに不満タラタラだった中学2年生はこのシークエンスに大興奮したものなのだ。

 旧作「日本沈没」の主役は田所博士であり、山本首相だった。当然リメイクでも、重要人物として最後まで活躍するものと思っていた。たとえ脇役であったとしても。
 ところが、リメイク版の、石坂浩二扮する山本首相は、映画の始めであっさり事故死してしまうのである。中国に日本国民の受入要請をしに自ら赴くべく搭乗した航空機が火山の爆発に巻き込まれてあっけない墜落死という形で。
 これには驚いた。だいたい火山の爆発で飛行機が墜落するケースなんてあるのだろうか? 
 それはさておき、搭乗する直前、留守を預かる、危機管理担当大臣(大地真央)に「沈没する日本についてどういう対応をとったらよいか」という識者のアンケート結果について話をするのだが、その内容が旧作の中で一番感銘を受けたシーンの文言だった。
 曰く「このまま何もしないほうがいい」。

 旧作には財政界に多大な影響を及ぼす老人(島田正吾)が〈D計画〉の核を握るキーパーソンとして登場する。いわゆる黒幕と呼ばれる人物。この老人のもとへお伺いをたてにいった山本首相との会話。
 かつて中学時代、2回目の鑑賞で記した日記から引用するとこうなる。

  老人は静かにそして重々しく言った。
 「日本はこのまま何もせん方がいい」
  山本総理は何も言わず老人の目を見る。それから口を開く。
 「何も…せんほうがいい?」
  総理の目に涙が浮かぶ。何か言おうとしたが口からでない。

 この時の目を真っ赤にして涙を浮かべる丹波哲郎の演技に心打たれた。
 ちなみに、この演技と「砂の器」の捜査会議における「繰り返し、繰り返し、……繰り返し、繰り返し」と言いながら目頭を熱くする演技、「千恵子抄」で精神に異常をきたした千恵子(岩下志麻)を背中に乗せ、馬のようになって部屋をはいずりまわる際の哀しい表情が丹波哲郎のベスト3。と個人的には思っている。

 閑話休題。
 「何もせん方がいい」という老人に言葉に対する万感の思いが見事にこちらに伝わってきた。にもかかわらずリメイクだと山本首相は「なにもしない」という回答に対してあれこれと自分の感想を述べるのだ。ここでもうリメイク映画に違和感が生じた。オマージュのつもりでオリジナルの名シーンをぶち壊しているのである。実生活はともかく映像作品においてはただしゃべらせればいいってもんじゃないのだ。

 もちろん旧作「日本沈没」にも違和感がないこともない。
 たとえば玲子という女性像。当時は別に何も感じなかったが、今見るとどうにもイヤな女である。特に小野寺との最初の出会いの会話なんて「何考えてるんだ」と蹴りいれたくなった。
 リメイク版でくさなぎくんが柴咲コウに「抱いて」と迫られて拒否するシーンがある。同じシーンが旧作にもあったことを忘れていた。水着姿のいしだあゆみが夜の浜辺で「抱いて」と藤岡弘に言うのである。会ったその日に!
 くさなぎくんの拒否がわからない。もうこの時点で死ぬことを決意していたので、一度限りの契りは女性に負担を与えるだけとでも判断したのだろうか。お前は戦前の生まれか!

 トヨエツ博士が日本を完全沈没から救う方法を大地大臣に新聞紙を引き破らせて説明する。プレートを爆破で寸断するなんてことが現実にできるのだろうかという疑問はあるがとりあえずここでは言及しない。これも旧作に似たシーンがある。先の老人が田所に「科学者にとって一番大切なものは何か?」と尋ねるシーン。田所は大陸移動説を唱えたヴェーゲナーを例にだし、勘がいかに大切であるか、熱弁をふるうのであるが、その具体的な説明のためにテーブルの上にあった新聞を二つに破るのだ。
 いしだあゆみとはぐれた藤岡弘は日本に残って救助活動に奔走する。ヘリコプターに乗って日本全国で大活躍。どこかでいしだあゆみと巡り会えるかもしれないという期待もあったと思う。これが海外で「KAMIKAZE」と報道されて話題となる。くさなぎくんの瞬間移動は旧作のこの設定をうわべだけ応用したものだろう。理屈もへったくれもないのだが。

 もうひとつ、旧作に対して違和感がある。それはナレーションの使用について。山本首相が登場する3箇所で突如としてナレーションが首相の心情を説明する。オープニングやエンディング、あるいは要所々でナレーションが使われているのなら、まだわかるのだが、この3箇所だけ、本当にそこだけとってつけたような感じがして腑に落ちない。だいたいナレーションがなくともそれほどストーリーの展開に影響はないのだ。

 旧作はクライマックスになって、テーマを明確に打ち出してくる。
 国土を失った日本人はどうなるのか? 日本とは何だったのか? 日本人とは? 
 ラスト、沈んでいく日本に残る決意をした田所の、山本首相に切々と訴える言葉が観客に「日本」及び「日本人」の意味をつきつけるのである。
 小松左京のSF小説「日本沈没」が書かれた理由はこのテーマにある。当時小松左京は「全世界に散った日本人のその後を描きたい、その前哨として」日本が沈没する話を考えたと語っていた。その思いは当時の中学2年生にも十分伝わっていた。
 その後の日本人を描いた続編「日本沈没 第二部」が三十数年を経て上梓された本年。たぶん出版に連動する形で公開されたリメイク版「日本沈没」では、このテーマがないがしろにされていた。別に日本が完全に沈まなくてもいい。そんなことで文句を言うつもりはないが、原作の〈核〉の部分ははずさないでほしい。そうでなければ原作に小松左京「日本沈没」なんてクレジットができるはずないではないか。
 樋口監督はリメイクにあたってストーリーを改変し別のテーマを打ち出した。しかし、あまりに奇想天外だし、仮に可能だとしても描き方の底が浅い。自己犠牲で涙を誘う作劇なんて、もう完全に手垢のついたシロモノだろうに。

 リメイク版で評価できるのは、ヴィジュアル以外、旧作で無視されていた一般庶民の視点、その避難生活、苦難ぶりを挿入したこと、狡賢い現実的な大臣(國村隼)を登場させたことか。
 原作を改変するのなら、昨今の地震被害を背景に、政府の無策ぶりに翻弄される一家族を通して日本沈没を描くという方法論もあったかもしれない。
 
 旧作はとにかく熱い映画である。久しぶりに観直していろいろアラが見えてしまう心配もあったが、逆に本当に傑作であることがわかった。特撮も今見てもそれほど遜色ない。第二次関東大震災なんて、実際に阪神大震災の現状を目の当たりにしていて、描写の確かさに驚いたほどだ。

 笑い話をひとつ。大震災のシークエンスで、逃げ場を失った千代田区民の避難場所として、山本首相が「きゅうじょうの門を開けてください」と宮内庁に電話するくだり。〈キュウジョウ〉を〈後楽園球場〉と勘違いした14歳の少年はなぜ球場の門を開けてもらうのに、時の首相が、直接官庁に電話しなければならないのだと思ったのだった。〈キュウジョウ〉が〈宮城〉で〈皇居〉のことを意味することを知ったのはずいぶん経ってからのこと。

 熱い映画と書いたが、これは時代が大いに関係していると思う。70年代の映画、TVドラマは今観ると皆暑苦しいほどだから。
 藤岡弘が実に何ともかっこいいこともつけ加えておく。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
TOHOシネマズ新宿にもの申す!
NEW Topics
告知ページ
 「グリーンマイル」 ~映画を観て原作をあたる
 「雨あがる」「ボイスレター」 「スペーストラベラーズ」「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」 「DEAD OR ALIVE 犯罪者」 ~ある日の夕景工房から
「シュリ」「海の上のピアニスト」「新選組」「ストーリー・オブ・ラブ」 ~ある日の夕景工房から
「天国と地獄」「どん底」 ~ある日の夕景工房から
「赤ひげ」「御法度」 ~ある日の夕景工房から
「ワイルド・ワイルド・ウエスト」「リトル・ヴォイス」「黒い家」 ~ある日の夕景工房から
1分間スピーチ #19 マスコミの悪意について
「双生児 ~GEMINI~」「秘密」「皆月」 ~ある日の夕景工房から
NHK「ファミリーヒストリー」は8月18日(金)に放送されます!
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top