夕景工房からの転載シリーズ、次は小林信彦だぁ!
 タイトルは1999年に読んだ小林信彦本という意味ですので。
 いつものことですが、おかしな文章は訂正しています。

     ◇

1998/01/28

 「天才伝説 横山やすし」(小林信彦/文藝春秋)

 昨年週刊文春に連載された傑作評伝が一冊にまとまった。
 小林信彦は藤山寛美が亡くなった後、文春に「藤山寛美とその時代」を短期連載している。
 渥美清が亡くなって次は「渥美清とその時代」だろうと予想していたら何と「横山やすし天才伝説」(単行本に際しタイトルが若干変更)だった。
 渥美清だろうと横山やすしだろうと小林信彦の芸人評伝が面白くないはずがない。ホント、連載期間中文春発売の木曜日が待ち遠しかった。

 まず自分との関わりの中での横山やすしを描写するから読む側を納得させる。それもある距離をもって客観的に論評するので信用できる。
 作者と横山やすしとの一番の接点は映画「唐獅子株式会社」であった。この映画に関わるもろもろのエピソードを当時のノートに基づいてしつこいくらい書いている。
 主演・横山やすしの映画「唐獅子株式会社」は当初鳴り物入りで映画化、公開された印象が強い。僕は劇場まで足を運ばずビデオで観たのだが、ギャグがちっともはじけないお寒い内容だった。ここらへんの顛末をあますことなく描写していて、自作の映画化作品に評価も下している(これは小林信彦初のことではないか? これまで自分の作品にはかたくなに口を閉ざしていたように思う。だいたい小林作品の映画化は、TV化も含めて内容を妙に改変されていいものになったためしがない。一流の映画評論家として本人はどう思っているのだろうと仲間内で話題になったこともあると何かで読んだことがある。

  「藤山寛美とその時代」では渥美清にもスポットをあて、西と東のトップの喜劇人の関係を活写していたが、今回もビートたけしを登場させて横山やすし像の輪郭をよりはっきり浮かび上がらせている。
 殴打事件の真相に迫るところはミステリーを読んでいる感覚だったし、ここまで具体的に書かれると他の横山やすし本が色あせてしまうのではないか。


1999/07/03

 「人生は五十一から」 (小林信彦/文藝春秋)

 週刊文春連載「横山やすし天才伝説」が終了したのは残念だったが、また五週間に一回の読書日記が再開されるからまあいいかと楽しみにしていた。するとこちらもすぐ最終回をむかえてくやしがっていたらなんと翌週から単独のコラム「人生は五十一から」がスタートしたのだった。これはうれしかった。
 そのコラムの98年連載分が一冊にまとまった。
 これまでの小林信彦のコラムの類は、たとえばキネマ旬報のそれは映画を中心にしたエンタテインメントの時評(これは中日新聞で継続中)とか、「本の雑誌」のそれは書評だとか、ジャンルがはっきりしていた。
 このコラムはこれまでの小林信彦コラムの集大成といった感がある。扱う題材は社会時評、映画やTVに関する批評、解説、エッセイ風思い出話、何でもありなのだ。一つひとつのコラムは分析が鋭く、その批判は的を得ているのがたまらない。
 ずっと続いてほしいコラムである。


1999/08/10

 「オヨヨ城の秘密」(小林信彦/角川文庫)

 角川文庫版を西川口駅改札前の臨時古書販売コーナーで見つけた。100円という価格もあって発作的に買ってしまった。
 ちくま文庫版解説で新井素子がその面白さを自身の体験とともに綴っていたけれど、僕自身はそれほど面白いとは思わなかった。最初の出会い(年齢)に関係する問題だと思う。
 中学生時代、オヨヨシリーズはけっこうな人気を呼んでいた。NHKの少年ドラマシリーズでもドラマ化されたし、同級生にもはまっていたやつがいた。しかし、当時僕はといえば逆にオヨヨに反発していた。作者・小林信彦にも何の興味もなかった。今から考えれば信じられない中学生だったのだ。  
 オヨヨシリーズに関しては、ジュヴナイルより、大人向けの後期の方が断然面白い。


1999/09/30

 「袋小路の休日」(小林信彦/中公文庫)

 数年前に単行本を図書館から借りて読んでいる。
 新オートレース通りの古書店で見つけて、色川武大が解説で小林信彦の人となり、作品なりを語っているので資料としても買いだと思って購入した。

 出版社、TV局、映画界、いわゆるマスコミ業界のことを作者本人の分身である主人公(というか狂言廻し)にして語る少々苦みのある純文学というのは小林信彦が得意とする分野だが、「ぼくたちの好きな戦争」以降、本人言うところの「第二期」にはとんとお目にかかれなくなった。「怪物の目覚めた夜」がその路線とも思えるが、あれはもっとエンタテインメントしていたような気がする。
 「ビートルズの優しい夜」にしろ、本作にしろ作者の世間に対する苦渋にみちたまなざしに触れた思いで、けっして心地よい気分になれるわけではない。にもかかわらず、その世界に浸ると作者の人間を見る辛辣な観察眼や感情を前面に押し出すのでなく、静かに論理的に語る文章に病みつきになってしまう。

 前回読んだ時は作者が脚本にからみゴタゴタに巻き込まれた松竹映画「進め!ジャガーズ 敵前上陸」製作の顛末と監督の前田陽一と参加した10年後の上映会をモデルにした「根岸映画村」が興味深かったのだが、今回は「自由業者」が気になる。この短編に登場する戦前の意識を持った放送作家出身のタレント・羽島達也の本質的なモデルはトニー谷じゃないかと思うのだ。味付け・装飾は青島幸男等の一時ブームを呼んだ放送作家出身のタレントたちなのだろうが。
 ユーモア小説「変人二十面相」のラストでも新旧の新宿の街を描写していて、「おや」と思った。確かに第二期からこれまでコラム、エッセイ等で語っていた東京の変貌を小説で描きだしたが、これまでにもその兆候のある小説を試みていたのがわかったからである。本作でも「路面電車」では荒川都電、「街」では杉並区・方南町のマンション建築をめぐる街の変貌を抑えた筆致で描写している。

 色川武大の解説で妙に納得してしまったのは「この人の作品は楽な姿勢で読める」の部分。言っていることがよくわかる。
 初期の純文学作品を古本屋で探したいと切に思う。




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kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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